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やむを得ない事情による転籍とは、どういう場合か

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転籍には、本人の意向によるものと、やむを得ない事情があると認められるものの2つの経路があります。後者は、受入企業の側に原因があるときに開く経路です。この経路では、本人の意向による転籍に付いている条件——制限期間や試験の合格——が外れます。

受入企業から見れば、これは「いつでも転籍され得る状態」に切り替わるスイッチにあたります。何がそのスイッチになるのかを知っておく意味は、そこにあります。

受入企業の側に原因があるとき、転籍の条件が外れます

制度は次のような作りになっています。出典は育成就労制度運用要領で、次の表は同要領の対照表から作りました。

出典:育成就労制度運用要領 本人の意向による転籍 やむを得ない事情があると認められる転籍
共通の基準(第1号〜第3号) 要 要
転籍を制限する期間 要 不要
技能・日本語能力の試験 要 不要
転籍先の基準(割合・優良など) 要 不要

右の列で外れるものは、左の列では受入企業を守っていたものです。制限期間も、試験の合格も、転籍先が優良であることも、やむを得ない事情があると認められれば問われません。

省令が挙げる5つ

育成就労法施行規則は、やむを得ない事情として次の5つを挙げています。

  1. 本人の都合以外の理由で、従前の計画に基づく育成就労の継続が困難となったこと
  2. 雇用契約で定められた事項について、育成就労実施者による重大な違反があったこと
  3. 育成就労実施者が、暴行・脅迫・自由の制限その他人権を侵害する行為をしたこと
  4. 育成就労実施者が、出入国または労働に関する法令に関し不正または著しく不当な行為をしたこと
  5. 前各号のほか、適正な実施と保護の観点から、従前の計画に基づく育成就労を継続することが相当でない事情が認められること

5つ目は包括条項で、1〜4に当てはまらなくても、ここで拾われる可能性があります。

運用要領は、さらに7つに分けて説明している

運用要領は〈転籍を認め得るやむを得ない事情〉として7類型を挙げています。以下、実務で効くものを中心に取り上げます。

ア 人権侵害行為を受けたと認められる場合

原本は例を具体的に挙げています。暴行(胸ぐらを掴む、ヘルメットの上から手や工具で叩く、工具を投げつける、火傷をさせる)、暴言・パワーハラスメント(帰国を迫る、名誉毀損・侮辱、民族や国籍を理由とする差別的言動、母語を話したら罰金を取ると注意する、土下座や丸刈りの強要、根拠のない賠償請求)、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント(妊娠を理由に解雇をほのめかす)です。

このうち、「母語を話したら罰金」が名指しで挙がっていることは知っておく価値があります。現場の規律のつもりで設けた決まりが、これに当たる可能性があるからです。

イ 雇用関係を打ち切られたと認められる場合等

経営上・事業上の都合による整理解雇が典型ですが、理由はこれに限られません。重要なのは次の点です。

解雇が法的に無効な場合にも、形式的に解雇を通知されていることをもって、やむを得ない事情に該当します。

解雇が無効だから転籍もできない、ということにはならず、通知した時点で該当します。解雇に至らなくても、経済的事情による事業規模の縮小等(事業転換・再編を含む)で継続が困難になった場合も該当するとされています。

ウ 雇用契約を合意解除したと認められる場合

イと同じ構造になっています。

育成就労実施者が育成就労外国人に対して、退職に合意する旨の書面へのサインを強要した場合など、合意解除が無効(取り消し得る)と認められる場合にも、形式的に解除の意思が合致していることをもって、やむを得ない事情に該当します。

イ・ウとも、別途、計画の認定の取消事由に該当する可能性があるとされています。転籍されたうえに認定も失う、という並びです。

エ 重大悪質な法令違反行為を行ったと認められる場合

この類型は、認定が取り消される前であっても該当します。判断は違反の重大悪質性、特に育成就労外国人にとっての不利益の程度に鑑みて行われます。押さえておく点は3つあります。

  • 単独では重大悪質と認められない違反でも、繰り返す場合は該当し得る
  • 本人に対する行為でなく、同僚に対する行為であっても該当し得る
  • 賃金不払いは、態様が重大悪質な場合、下の「オ」の是正申入れを待たずに転籍が認められる(使用者の責めに帰すべき事由による休業の休業手当の不払いを含む)

原本が挙げる類型は、認定計画との齟齬、賃金不払い、二重契約、欠格事由への該当、育成就労法令違反、出入国関係法令違反、労働基準関係法令違反です(欠格事由の記事)。

育成就労法令違反の例示には、監理支援費を本人に負担させること、在留カードや旅券の保管、私物の不当な管理、外出の不当な制限、恋愛・妊娠の禁止、違約金の定め、貯蓄の強制が挙がっています(違約金の記事)。

オ 重大悪質な契約違反行為を行ったと認められる場合

雇用契約等の条件又は待遇と実態の間に、社会通念上、育成就労を継続し難いと認められる相違があり、育成就労外国人が育成就労実施者に是正を申し入れたが、是正されない場合をいいます。

「雇用契約等」には、雇用契約と密接に関連する契約が含まれ、原本は宿泊施設の賃貸借契約を例に挙げています。説明した宿泊施設の条件に反している場合や、勤務地や宿泊施設の変更で本人負担額が増えたり生活環境が変わったりした場合も、相違があると認められる場合があるとされています(住居と生活支援の記事)。

是正の申入れについても、実務上効いてくる点があります。

  • 本人が行わなければならないものではなく、相談を受けた機構が要請する場合も含む
  • 同じ違反と是正を繰り返す場合は、申し入れるまでもなく該当し得る
  • 「ここでの是正とは、原則として契約違反開始時まで遡って是正することをいいます」

重いのは最後の一文です。今月から直せばよい、という話にはなりません。

カ 雇用契約書等を交付されていない場合、または母国語で説明を受けていない場合

認定申請の時点で母国語での説明の適否を確認することになっていますが、義務違反が事後的に発覚した場合は、やむを得ない事情があると認められます。

キ その他、継続することが相当でない事情

例として、育成就労の開始後に、実施場所で取り扱う原材料に対するアレルギーや疾病を発症し、継続が困難になった場合や日常生活に支障をきたすようになった場合が挙げられています。キは受入企業の落ち度を前提としておらず、誰のせいでもない事情でも転籍は起こります。

認められたとき、受入企業は何をするのか

受入企業は、転籍を止める側に回るわけではありません。原本は次のように定めています。

やむを得ない事情が認められる場合、育成就労実施者または監理支援機関は育成就労実施困難時届出書を提出するとともに、円滑に転籍できるよう支援する必要があります。受入企業には、転籍を支援する義務が課されているということです。

非自発的離職の要件とは、自動的にはつながりません

混同されやすいところなので、原本の書きぶりをそのまま示します。

やむを得ない事情があって転籍が生じたことは、直ちに非自発的離職者を発生させたということにはならず、第2節第6(12)の非自発的離職者に係る基準は、それぞれの状況に応じて個別に判断されることとなります。

転籍されたからといって、次の受入れができなくなるわけではありません。ただし個別に判断されるので、関係が無いとも言えません(非自発的離職の記事)。

当社が確認できていないこと

  • 「重大悪質」「社会通念上」といった判断を、誰がどの基準で行うのかは、条文にも運用要領にも書かれていません。認定の実務を担う外国人育成就労機構の判断になります
  • 運用要領が挙げる7類型は例示です。省令の5つ目が包括条項である以上、ここに無い事情が認められないとは言えません
  • 育成就労法第46条から第48条までの条文そのものには到達していません。運用要領が違反の例として参照している条です

経営者が明日できること

  1. 説明した宿泊施設の条件と、いまの実態が合っているかを確かめてください。「オ」は契約違反開始時まで遡って是正することを求めているので、ずれは早いほど安く直ります。
  2. 現場の規律の中に、母語の使用や交際・妊娠を制限する決まりが無いかを確かめます。これらは名指しで例示されています。
  3. 雇用契約書の交付と母国語での説明が、実際に行われた記録として残っているかを確かめます。「カ」は事後に発覚した場合を対象にしています。

やむを得ない事情による転籍は、防ぐものというより、起こさないようにするものです。人が入れ替わる前提の設計については転籍を前提にした設計の記事を、流出への備えは転籍のリスクに備える記事をご覧ください。

制度は改正されます。この記事の内容は時点注記の日付時点のもので、実際の判断にあたっては最新の条文と運用要領をご確認ください。

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本記事は2026年9月時点の法令・行政資料に基づきます。

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