非自発的離職があると受入れできないという要件の読み方
TalkJPN for Business
受入れの検討を始めた会社から、決まって不安そうに出てくる質問があります。
「うちは去年、人を辞めさせています。もう受け入れられないのでしょうか」
聞き方はいろいろですが、過去の人員の動きが受入れの可否に直結するのではないか、という心配である点は共通しています。先にお答えすると、対象となる範囲はかなり絞られています。ただし、絞られ方を誤解したまま「うちは大丈夫」と判断するのも危険ですので、読み方を整理しておきます。
数えるのは、限られた範囲だけです
この要件は、すべての離職を数えているわけではなく、三重に絞られています。
まず期間が絞られており、過去のすべてではなく直近の一定期間が対象です。次に仕事の内容が絞られており、会社全体ではなく、これから外国人に従事させる業務と同じ種類の業務が対象です。さらに、定年、本人の重大な理由による解雇、一定の雇止め、そして本人の意思による退職といった類型が除かれます。
そのうえで、絞られた範囲の中に一人でも該当者がいれば、基準を満たしません。「何件までなら大丈夫」という要件ではないことに注意が必要です。
条文を読む
原本の定めは次のとおりです。出典は育成就労制度運用要領です。
ロ 過去一年以内に、申請に係る育成就労外国人に従事させる業務と同種の業務に従事していた労働者(次に掲げる者を除く。)を離職させていないこと。 ⑴ 定年その他これに準ずる理由により退職した者 ⑵ 自己の責めに帰すべき重大な理由により解雇された者 ⑶ 期間の定めのある労働契約(以下この⑶において「有期労働契約」という。)の期間満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了(労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該有期労働契約の期間満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、当該有期労働契約の相手方である育成就労実施者が当該労働者の責めに帰すべき重大な理由その他正当な理由により当該申込みを拒絶することにより当該有期労働契約を終了させる場合に限る。)された者 ⑷ 自発的に離職した者
⑷が置かれている点を確認してください。本人の意思による退職は、この要件で数える対象ではありません。運用要領は、これを「いわゆる自己都合退職等」と補足しています。
なぜこの要件があるのか
趣旨は原本に書かれており、ここを押さえておくと、判断に迷ったときの方向が分かります。出典は同要領です。
○ 本規定は、育成就労実施者や監理支援機関が現に雇用している労働者を離職(非自発的離職)させ、その労働力の補填として育成就労外国人を受け入れることは、人手不足に対応するための人材の確保という育成就労制度の趣旨に沿わないことから、過去1年以内に育成就労外国人に従事させる業務と同種の業務に従事する労働者を非自発的に離職させていないことを求めるものです。
この規定が防ごうとしているのは、いまいる人を辞めさせて、その穴に外国人を入れるという「入れ替え」です。そのため、同種の業務という限定が付いています。営業部門の人員整理と製造現場での受入れは、別の話になります。
この趣旨が分かっていれば、形式を整えても通らない場面も予測できます。実際、原本はその点にも手当てをしています。
退職届が出ていても、非自発的離職として扱われることがあります
この記事で最も重要なところです。⑷に「自発的に離職した者」が並んでいるため、退職届さえ出ていれば数えない、と読みたくなりますが、原本はそうなっていません。【留意事項】に次のように書かれています。出典は同要領です。
○ 下記のいずれかの場合に、それを理由に離職したと認められる者は非自発的離職者として扱います。 (a) 労働条件に係る重大な問題(賃金不払い、過度な時間外労働、採用条件との相違等)があった場合 (b) 就業環境に重大な問題(故意の排斥、嫌がらせ等)があった場合 (c) 人員整理を行うため、希望退職の募集又は退職勧奨を行った場合
(c)には「退職勧奨」が入っています。面談で退職を促し、本人が退職届を出したのであれば、形式上は自己都合です。それでも、それを理由に離職したと認められれば、非自発的離職者として扱われます。
(a)と(b)も同じ構造です。賃金の不払いや過度な時間外労働、嫌がらせがあって辞めた場合は、本人が退職届を出していても、この要件の対象になりえます。雇止めについても同様の定めがあります。
○ 有期労働契約の期間満了に伴う契約期間の更新を受けずに離職した者について、離職者の責めに帰すべき重大な理由その他正当な理由によらない雇止めに該当する場合には、非自発的離職者に該当しますので留意してください。
⑶が除外しているのは、本人に重大な理由があるか、その他正当な理由がある雇止めに限られます。「契約期間が終わったから更新しなかった」というだけでは、除外の側に入りません。この要件は、書類の形ではなく離職の理由で判断されるということです。
数えるのは「フルタイムの同種業務」です
範囲についても、原本に定義があります。出典は同要領です。
○ 「同種の業務に従事していた労働者」については、 フルタイムで雇用されている従業員のうち、育成就労外国人が従事する業務と同種の業務に従事していた労働者をいい、パートタイムやアルバイトは含みません。
パートタイムとアルバイトは含まれないので、範囲を確認するときは、まずフルタイムの人員に絞ってください。
ただし、「同種の業務」をどの単位で判定するのか(業務区分なのか、職種なのか、もっと細かい作業単位なのか)について、正面から述べた記述はこの箇所から確認できていません。自社の線引きが微妙な場合は、申請の前に機構へ確認してください。
「1名でも」という書き方です
件数の考え方は、原本が明示しています。除外される四つの類型を挙げたうえで、次のように続きます。
つまり、①から④の離職者を発生させることは許容されますが、これらに該当しない非自発的離職者を 1 名でも発生させている場合は、基準に適合しないこととなります。
閾値はありません。「比率が小さければ」「経営上やむを得なかった」といった調整の余地は、この条文の書き方には見当たりません。
認定を取った後も、終わりません
見落とされやすい定めがもう一つあります。出典は同要領です。
○ 育成就労外国人を雇用している間に非自発的離職者を発生させた場合には、本規定に反するものとして育成就労計画の認定の取消しの対象となります。
この要件は申請のときだけ通ればよいものではなく、受け入れている間ずっと同じ基準が続きます。人員計画の問題として扱うべきもので、受け入れた後に同種の業務で人員整理を行えば、認定の取消しという形で返ってきます。三年の受入れを前提にするなら、その期間の人員計画と合わせて考えてください。
→ 転籍は防げません|人が入れ替わる前提で、受入れをどう設計するか
別法人を作る、という抜け道はありません
この点も、原本は先回りして定めています。出典は同要領です。
○ 非自発的離職者を発生させた育成就労実施者又は監理支援機関が、基準に適合しないことを免れるために別機関を作った場合は、育成就労計画の認定基準を満たさないものとして取り扱うことがあり得ます。
法人を分けて回避する形は、想定されたうえで封じられており、検討する価値のある方向ではありません。
自社で確認しておくこと
制度の話を、具体的な段取りに落とすと次のようになります。
最初に、範囲を決めます。これから外国人に従事させる業務を特定し、それと同種の業務に、直近の一定期間内にフルタイムで従事していた人を洗い出します。ここを広く取りすぎると無用に不安になり、狭く取りすぎると後で判断が覆ります。
次に、離職の理由を、書類ではなく経緯で確認します。見るのは退職届の有無ではなく、退職勧奨をしていないか、労働条件や職場環境に重大な問題がなかったかです。面談の記録が残っているなら、それを見てください。
雇止めがあった場合は、その理由を確認します。更新の申込みがあったか、拒絶した理由は何かが、除外されるかどうかの分かれ目になります。
あわせて、認定後の人員計画と突き合わせます。受入れ期間中に同種業務で人員整理の予定があるなら、先に整理しておいてください。
判断が微妙なら、申請の前に確認します。提出することになるのは、認定申請書のほかに、申請者の誓約書と、外国人等に関する申告書です。誓約する内容ですので、曖昧なまま出さないでください。
「うちは大丈夫」と判断する前に
この要件について、相談の場でよく聞く言い方が二つあります。どちらも、そのままでは危ういものです。
一つは「本人から辞めたいと言ってきたので、自己都合です」という言い方です。この場合は、言ってくるに至った経緯が問われます。退職勧奨の後であれば、(c)に当たりえます。
もう一つは「契約社員だったので、期間満了です」という言い方です。更新の申込みがあったかどうか、拒絶に正当な理由があったかどうかで、扱いが変わります。
どちらも、当時どう処理したかではなく、いま第三者が見てどう評価されるかで決まります。記録が残っていないなら、記憶があるうちに整理しておいてください。
経営者が明日できること
- これから外国人に従事させる業務を、先に特定する。範囲はそこから決まります
- その業務に、直近の一定期間内にフルタイムで従事していた離職者を洗い出す
- 一人ずつ、離職の理由を書類ではなく経緯で確認する。退職勧奨、賃金の不払い、過度な時間外労働、嫌がらせの有無を見ます
- 雇止めがあれば、更新の申込みの有無と拒絶の理由を確認する
- 受入れ期間中の人員計画と突き合わせる。認定後も続く要件です
- 判断が微妙な離職が一件でもあるなら、誓約書を出す前に機構へ確認する
この要件は、過去を罰するためのものではありません。いまいる人を押し出して外国人を入れる、という形を防ぐために置かれています。自社の過去がその形に当たるかどうか、その一点を見てください。
この記事で引いた原本
- 育成就労法施行規則 第15条第1項第10号ロ(要件と除外される四つの類型)
- 育成就労制度運用要領(規定の趣旨、認定取消しの対象となること、「1名でも」、非自発的離職者として扱う類型、「同種の業務に従事していた労働者」の範囲、別機関を作った場合、確認対象の書類)
制度は改正されます。この記事の内容は時点注記の日付時点のもので、実際の判断にあたっては最新の条文と運用要領をご確認ください。個別の離職が要件に当たるかどうかの判断は、弁護士または社会保険労務士にご相談ください。
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