住居・生活支援の準備|何をどこまで用意するか
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受入れの準備の中で、いちばん手が止まるのが住まいです。
物件を探し、家具を入れ、生活の立ち上げを手伝う。ここまでは想像がつきますが、どこまでやれば「足りている」ことになるのかは、なかなか見えてきません。
この部分には細かい条件が置かれており、申請の時点で確保されていることが原則とされています。後から探せばよいものではありません。
「借りればよい」ではなく、条件を満たした場所を確保する作業です
条文は短く、「適切な宿泊施設を確保していること」と書かれているだけです。出典は育成就労制度運用要領です。
問題は「適切」の中身で、原本はこれを前提と九つの確認事項に分けて具体化しています。
この作業は、間取りと立地の段階で大部分が決まります。契約してから直せるものと直せないものがあるので、直せないほうを先に確認してください。
前提は、建物そのものにあります
見落とされやすいのが、ここです。出典は同要領です。
なお、適切な宿泊施設と認められるには、前提として当該宿泊施設が建築基準法上の基準を満たした「建築物」であることが必要です。また、宿泊施設の確保に当たっては、下記①から⑨の事項が確認できることが必要です。
九つの確認事項に入る前に、建物として基準を満たしていることが前提に置かれています。倉庫の一角、事務所の二階、仮設の建物といった選択肢を検討している場合は、九つの項目を見る前に、この前提で止まることになります。
求められている九つ
原本の九つを、性質で並べ替えて見てください。場所を選ぶ段階でしか直せないものと、後から用意できるものが混ざっています。
物件を決める前に確認するもの
まず、危険・有害な場所の付近を避けることです。爆発物や可燃性ガスなど火災の危険が大きい物を扱う場所の付近、高熱・ガス・蒸気・粉じんが出るなど衛生上有害な作業場の付近、騒音や振動の著しい場所、雪崩や土砂崩壊のおそれのある場所、湿潤な場所、出水時に浸水のおそれのある場所の付近について、これらを避ける措置を講じることとされています。自社の敷地内や工場の近くに住まいを用意する場合は、ここを先に見てください。
次に、避難の経路です。二階以上の寝室に人が住む建物には、人数に応じた数の避難階段を設けることとされています。避難器具で代えることもできますが、人数が多い場合は一つは階段でなければならないとされています。器具で代える場合は、本人に説明したうえで、申請書類の特記事項に記載することが求められます。
三つめは寝室の広さで、一人当たりの面積が定められています。床の間や押入など、実際には使えないスペースは除いて数えます。申請では見取り図を出すことになり、どの部分を使うかを枠線や斜線で示し、面積の算出根拠を書くことが求められます。
この三つは、契約してからでは直せません。
設備として用意するもの
消火設備は、火災の際に機能するよう、実効性のある場所に適当かつ十分なものを設置し、日頃から点検するなど維持管理をすることとされています。
私有物の収納設備は、注記が厚いところです。一定の容量があり、施錠ができて、持ち出せないことが必要とされており、原本は次の形を明確に否定しています。
- 押入れの中を人ごとに区分けしただけのもの
- 個人ごとの収納ボックスを渡しただけのもの
- 本人のスーツケースを収納設備として使わせるもの
施錠の機能がなければ南京錠やチェーンロックなどを付け、建物に備え付けられていなければ防犯ワイヤー等で固定する、と具体的に書かれています。鍵は使う本人に管理させなければならないともされています。
この項目の趣旨は、会社に対しても本人のものを守ることにあります。「会社が用意した部屋なのだから」という発想とは、向きが違うと考えてください。
窓と冷暖房については、室面積に対する有効採光面積を持つ窓と、生活に必要とされる採暖・冷房設備等を設ける措置が求められます。
水回りは、トイレ、洗面所、洗濯場、浴場(脱衣室を含む)を設け、清潔にすることとされています。浴場は温かく入浴でき、プライバシーが守られるよう十分に配慮することと書かれています。ただし、近くにこれらの施設がある場合は、宿泊施設内に設ける必要はないとされています。
食堂・炊事場を設ける場合は、照明と換気を十分に行い、食器や炊事用器具を清潔に保管し、虫やネズミの害を防ぐ措置が求められます。
運用として続けるもの
共用部分については、必要に応じて消毒するなどの衛生管理を行い、感染症の発生とまん延を防ぐための措置を講じることとされています。これは一度の準備で終わらず、続けていく作業です。
就眠時間の違う人がいる場合は、寝室を分けることも求められています。交代制で働く職場では、ここが配置の制約になるので、シフトを組む前に確認してください。
別の法律が関わってくるもの
宿泊施設が、労働基準法に定める「事業の附属寄宿舎」に当たる場合は、同法が求める寄宿舎規則の届出等を行っているか、速やかに行うこととしていることが必要です。
該当するかどうかの目安も、原本に書かれています。
・ 常態的に相当人数の労働者が宿泊し、共同生活の実態を備えていること。 ・ 独立又は区画された施設であること(事業主の母屋に同居する場合は寄宿舎に該当しない。)。 ・ 事業経営の必要上その一部として設けられているなど事業との関連をもっていること(労務管理上共同生活の必要性の有無や事業場所内又はその付近にあるかも関係します。なお、社宅・アパートは該当しません。)。
「社宅・アパートは該当しません」と明記されているので、一般の賃貸物件を一人ずつ借りる形なら、この論点は生じません。自社の建物にまとめて住まわせる形を考えているなら、該当性を確認してください。原本は、疑義がある場合は管轄の労働基準監督署に相談するよう求めています。
申請の時点で、確保されている必要があります
段取りに直結する定めです。原本は、原則として認定申請時に契約により確保されている必要があるとしています。
困難な特段の事情がある場合の扱いも書かれており、確保予定の具体的な物件について、見取り図を示して本人に説明し、その資料を添付して申請する形になります。
いずれにしても、「採用が決まってから探す」のでは順番が合いません。認定の後に別の施設へ変更することになった場合も、変更の届出が必要とされています。
来日直後の宿泊先も、同じ条件です
見落とされやすい定めとして、入国後の講習を受けている期間に宿泊する施設にも、同じ確認事項が適用されます。講習の期間だけ別の場所に泊める段取りを考えている場合は、そちらも同じ基準で見られるということです。
本人が別の物件を希望した場合
ここは、会社側が知らないことが多い部分です。
原本は、本人が別の物件(例として近隣の賃貸物件)を希望した場合について、基準を満たす限り、本人の自己負担で変更して差し支えないとしています。ただし、育成就労計画の変更の届出が必要です。
住まいは会社が固定するものとは限らず、条件を満たす範囲で、本人が選び直せる余地が制度の側に用意されています。
実務としては、二つのことを決めておいてください。ひとつは、本人が希望を出せることを、いつ、どう伝えるかです。知らされていなければ、選びようがありません。もうひとつは、希望が出たときに、誰が基準への適合を確認し、誰が届出をするかです。
後になって「言ってくれれば」と言っても、言えると知らなかった人には言えなかったはずです。
経過的な取扱いが置かれている部分があります
技能実習で受け入れてきた会社には、関係するかもしれない定めがあります。
技能実習法の施行前から技能実習生を受け入れて使っている宿泊施設について、寝室の面積の基準を満たしていない場合でも、寝室以外に私有できるスペースを別途設けているなどにより、実質的に必要な広さが確保されていると認められるときは、その施設を使っている間は適切と認められる余地がある、とされています。
この場合は、機構の地方事務所・支所の認定課に事前に相談したうえで、申請書類の特記事項に取り組みの内容を記載して申請することになります。
原本はこの扱いについて「今後3年間の運用状況を踏まえた上で見直しを検討します」と書いており、恒久的な取扱いとして計画に織り込むのは危険です。
提出するもの
確認の対象になる書類は、雇用契約書と雇用条件書の写し、それに報酬・宿泊施設・徴収費用についての説明書です。
避難器具で階段に代える場合や、面積の経過的な取扱いを使う場合は、この説明書の特記事項に記載することになります。特記事項が、例外的な扱いの受け皿になっていると考えてください。
「生活支援」は、住まいだけではありません
ここまで住まいの話をしてきましたが、生活の支援そのものは別の役職に割り当てられています。生活の相談に応じ、助言する担当を置くことが、別の要件として求められているのです。
原本は、その担当が扱う例として、職場の人間関係の悩み、地域のごみ出しや役所の手続、交通ルール、事故の防止、体調の管理などを挙げています。担当がすべてを自分で対応する必要はなく、補助者を付けてもよいとされています。
住まいを用意することと、暮らしが立ち上がることは別です。前者は物件の話、後者は人の話なので、両方を同じ担当に任せると、どちらも中途半端になりがちです。
経営者が明日できること
- 候補の物件が、建物として基準を満たしているかを先に確認する。ここで止まる選択肢があります
- 場所を見る。火災の危険が大きい物を扱う場所、衛生上有害な作業場、騒音・振動、浸水のおそれ。自社の敷地内なら特に注意が要ります
- 二階以上に寝室を置くなら、避難の経路を先に確認する
- 寝室の面積を、使えないスペースを除いて計算し、見取り図に根拠を書く
- 私有物の収納設備を、施錠でき、持ち出せない形で用意する。収納ボックスやスーツケースでは足りません
- 交代制なら、就眠時間の違う人を同じ寝室にしない配置を先に確認する
- 自社の建物にまとめて住まわせるなら、寄宿舎に当たるかを確認する
- 本人が別の物件を希望できることを、いつ誰が伝えるかを決める
- 申請までに契約で確保する段取りを引く。原則は申請時点です
住まいの条件は細かく見えますが、並んでいるのは、火事のときに逃げられるか、ものを盗まれずに済むか、眠れるか、清潔に暮らせるかという項目です。条件を満たすための作業というより、人が暮らせる場所を用意する作業だと考えると、判断に迷わずに済みます。
この記事で引いた原本
- 育成就労法施行規則 第18条第1号イ・第2号イ(適切な宿泊施設の確保)
- 育成就労制度運用要領(「建築物」であることという前提、九つの確認事項とその注記、入国後講習中の施設、本人希望による変更、申請時の確保、確認対象の書類、事業の附属寄宿舎の該当性、面積の経過的取扱い)
- 育成就労法施行規則 第15条第1項第3号(生活相談員の選任)
制度は改正されます。この記事の内容は時点注記の日付時点のもので、実際の準備にあたっては最新の条文と運用要領をご確認ください。具体的な数値の基準は、必ず原本をご確認ください。寄宿舎の該当性については、管轄の労働基準監督署にご相談ください。
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