日本語教育

入国前講習と入国後講習で、何を教えるべきか

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受入れの準備を始めると、たいてい同じ相談が出てきます。

「来日前に、できるだけ済ませておきたいのですが」

自然な発想です。日本に着いてからの期間は仕事を始められず、その間も費用は出ていきます。前倒しできるものは前倒ししたい、と考えるのは当然でしょう。

ただ、この前倒しには枠があり、枠の外に置かれているものが、日程と手配の両方に効いてきます。

前倒しできる中身と、できない中身が分かれています

講習は、性質の違う複数の科目で組まれています。そのうち来日前の枠に入れられるのは一部で、一つだけ外れている科目があります。

外れているのは、誰が教えるかが決められている科目です。教える側に条件が付いているため、場所を移して前倒しする対象になっていません。

先に切り分けておけば、日程の組み方が変わります。ここを混ぜたまま計画を立てると、「前倒ししたつもりだったのに、結局こちらで全部やることになった」という形で後から返ってきます。

講習は、性質の違う科目で組まれています

原本は、講習の科目を次のように定めています。出典は育成就労制度運用要領です。

ロ 科目が次に掲げるものであること。  ⑴ 日本語  ⑵ 本邦での生活一般に関する知識  ⑶ 出入国又は労働に関する法令の規定に違反していることを知ったときの対応方法その他育成就労外国人の法的保護に必要な情報(専門的な知識を有する者(監理型育成就労に係るものである場合にあっては、申請者及び監理支援機関に所属する者を除く。)が講義を行うものに限る。)  ⑷ ⑴から⑶までに掲げるもののほか、本邦での円滑な技能の修得に資する知識

四つ並んでいますが、性質は二種類に分かれます。

一つは、本人の中に積み上がるものです。日本語、生活の知識、仕事に入る前に知っておくべき技能の周辺知識がこれにあたり、どこで身につけても持ち運べます。

もう一つが⑶で、法令に違反している状態を知ったときにどうするかを扱います。これは知識の伝達であると同時に、誰が伝えるかが意味を持つ中身です。そのため括弧の中で、教える側に条件が付いています。

前倒しできるのは、三つだけです

原本は、来日前に行う講習を定義しています。同じく運用要領から引きます。

入国前講習(過去六月以内に、本邦外において、ロ⑴、⑵又は⑷に掲げる科目につき、座学により実施される次のいずれかの講習をいう。以下同じ。)

挙がっているのは ⑴・⑵・⑷ の三つで、⑶は入っていません。

これは書き漏らしではありません。⑶には「申請者及び監理支援機関に所属する者を除く」という条件が付いており、誰が講義するかに条件を置いた科目を、海外での前倒しの枠に入れていない、という構造です。

外れている科目は、外部に頼むことが前提になっています

運用要領は、この科目の講師について次のように書いています。出典は同要領です。

育成就労法令、入管法令、労働関係法令等による育成就労外国人の法的保護に必要な情報について十分な知識を有すると認められる者である必要があり、具体例として、「地方公共団体の職員、弁護士、社会保険労務士、行政書士等」が挙げられます。なお、これらの講師は、育成就労実施者又は監理支援機関に所属していないことが必要となります。

自社の社員でも、監理支援機関の職員でも務まりません。具体例として挙げられているのは、いずれも社外の専門職です。

中身も、会社の都合で決められるものではありません。原本は「以下の事項等が講義内容に含まれていなければなりません」として、申告や相談の方法、労働基準監督署等への連絡方法と申告による不利益取扱いの禁止、賃金未払への立替払制度、社会保険と税、妊娠・出産に関する不利益取扱いの禁止と休業の制度、就労先の変更を希望するときの申出の方法、相談窓口などを列挙しています。

並んでいるものを見れば分かるとおり、これは会社に何かあったときに、本人が会社の外へ相談するための科目です。会社の中の人が講義することになっていないのは、そのためです。

実務上の帰結は単純で、この科目は日本に着いてから、条件を満たす外部の方に講義してもらうことになります。前倒しの計画からは、この分を外してください。講師を探すところから始まるので、直前に動くと間に合いません。

前倒しには、形式の条件が付きます

三つの科目なら自由に何をしてもよい、というわけではなく、原本は形式を限定しています。出典は同要領です。

まず、座学であることが求められます。見学は含まれますが、作業をさせることで代替することは認められません。「現地の工場で実習させたので講習に代える」という組み方は成り立ちません。

オンラインでの実施は可能です。場所を移す必要はありますが、対面である必要まではありません。

実施主体も決まっています。単独型なら受け入れる側、監理型なら監理支援機関で、いずれも自ら行うか、他の適切な者に委託して行います。委託できるので、現地の教育機関を使う形は取れます。ただし原本は「外国の教育機関」を、その国・地域の学校教育制度で正規の教育機関と認定されており、かつ義務教育終了後に入学する機関と定義しているので、どこでもよいわけではありません。

期間の限定もあります。前倒しとして数えられるのは、直近の一定期間内に行われたものに限られます。原本は「過去6か月前よりも前に受けた講習は入国前講習の講習時間数に算入されません」と明記しています。「二年前に日本語学校に通っていた」という経歴が、そのままこの枠に入るわけではありません。

見込みで申請はできます。ただし入国の時点が締切です

実務でつまずきやすいのは、申請の時点で前倒しの分がまだ終わっていない場合です。

原本は、これを認めています。入国前までに実施される見込みがあれば、受講した場合の前提で申請して差し支えないとしています。

ただし、入国の時点で所定の分に達していなければ、その不足は日本側で埋めることになります。原本は「所定の時間数の入国前講習を必ず実施した上で入国するようにしてください」と書いています。見込みで申請できることと、見込みのままでよいことは別なので、現地の実施状況を入国の前に必ず確認してください。

「前倒しの効き目」は、受入れの形で変わります

いちばん誤解されやすいのがこの点です。原本は、単独型と監理型を明確に分けています。出典は同要領です。

・ 監理型育成就労においては、育成就労実施者と育成就労外国人との間の雇用契約に基づく就労開始前に実施する講習のみを入国後講習の必要時間数として含めることができます。このため、雇用契約に基づく就労開始日後に行われる講習は、入国後講習の必要時間数に含めることができません。  なお、単独型育成就労においては、雇用契約に基づく就労開始後に実施された講習の時間数(法的保護科目は除く。)も、そのほかの講習に係る要件を満たす場合は、入国後講習の必要時間数に含めることができます。

就労開始後の講習を、必要分に算入できるか
監理型 できない。就労開始前に実施したものだけ
単独型 できる(法的保護科目を除く。他の要件を満たす場合)

監理型で受け入れるなら、講習が終わるまで仕事は始まりません。ここを見落とすと、配属日の前提が崩れます。

裏を返せば、前倒しで三科目を海外側に寄せておくと、日本に着いてから仕事に入るまでの期間が短くなります。前倒しの本当の効き目は、監理型でこそ大きいということです。

就労が始まった後の講習は、扱いが変わります

もう一つ、見落とされやすい定めがあります。

・ 雇用契約に基づく就労開始後に、育成就労実施者が日本語等の講習を実施することは可能です。なお、育成就労外国人の参加を強制して業務として行う場合は、労働基準法上の労働時間として賃金の支払対象となることに留意してください。

就労が始まった後も、会社として日本語の講習を続けることはできます。現場で使う言葉は講習では終わらないので、むしろ続けたほうがよいでしょう。

ただし、参加を強制して業務として行うなら、それは労働時間です。「業務終了後に自由参加で」という建て付けにしておきながら、実際には全員参加が前提になっている、という運用は危ういものです。どちらにするかを先に決めて、賃金の扱いを合わせてください。

→ 日本語教育の時間を、シフトの中でどう確保するか

日本語の水準は、分野によって上振れします

講習の総量は、本人の日本語能力が証明できているかどうかで変わり、証明できていれば必要な総時間数が下がる定めになっています。

問題になるのは、「証明できている」の中身です。原本は次のように書いています。出典は同要領です。

※ 「一定の日本語能力」とは、「本邦での生活に必要な日本語能力及び従事させる業務に必要な日本語能力」をいい、通常は日本語教育の参照枠 A1 相当が求められますが、特定の育成就労産業分野においては、より高い水準を要求している場合がありますので、必ず分野別運用方針を確認してください。

「通常は」と「分野によってはより高い」が並んでいるので、一般の水準を前提に計画を組むと、自社の分野では足りない可能性があります。

原本自身が「必ず分野別運用方針を確認してください」と書いている箇所です。ここは、調べてから計画を作るという順番でお願いします。

A1 という目盛りが何を指すかは、別の記事で扱っています。

→ A1・A2とはどの程度の日本語力か|現場の作業と対応させて読む

講習は、現場の言葉までは届きません

範囲をはっきりさせておきます。講習で扱えるのは、日本語の基礎、暮らしの決まり、仕事に入る前の一般的な知識といった、どの職場にも共通する中身です。

技能に関する科目については、業務に用いる機械の構造や操作の知識、仕事への心構え、社内の規律などが想定されており、業務内容に応じた安全衛生教育を座学で行うことが求められています。現場の施設見学も、この科目に含まれます。

ただし、原本ははっきり線を引いています。「育成就労実施者の工場の生産ライン等の商品生産施設においては見学以外の活動は認められません」。生産ラインでの機械操作の教育や安全衛生の教育は、講習とは別に、技能の修得活動として行うことになります。

講習の時間で、現場の実務を教えることはできません。その職場でしか使わない言葉や、その設備でしか出てこない指示は、配属後に現場の側が渡すしかないものです。

→ 外国人社員の日本語は、研修では解決しません|職場の側で決める五つのこと

→ 現場で使う漢字は、教材ではなく職場の紙から選ぶ

前倒しを設計するとき、決める四つ

制度の話を、自社の段取りに落とすと、決めることは四つあります。

一つ目は、三科目のうち、どれを海外に寄せるかです。全部を寄せる必要はなく、日本語だけを寄せて、生活の知識は日本で渡す、という分け方もできます。生活の知識は、実際にその土地で暮らし始めてから渡すほうが届く、という判断はありえます。

二つ目は、誰が行うかです。自ら行うか、委託するかを決め、委託するなら、中身を誰が決めるかを契約の時点で決めてください。「向こうで適当にやってもらう」は、質のばらつきとして後から返ってきます。

三つ目は、海外側で何が行われたかを日本側の担当が知る経路です。前倒しが効くのは、日本側がその続きから始められるときだけです。何をどこまでやったかが伝わっていないと、同じところを二度やることになります。

四つ目は、法的保護に関する科目を誰に頼むかです。この科目は前倒しの枠に入らず、社内の人では務まらないので、社外の専門職を探すところから始まります。

なお、生活一般と法的保護の科目については、育成就労外国人手帳を教材の一つとして必ず使うこととされています。手元に配るだけでなく、講義の中で該当部分を示す形が求められています。

経営者が明日できること

  • 自社が単独型か監理型かを確認してください。就労開始後の講習を算入できるかが変わります
  • 前倒しの計画から、法的保護に関する科目を外します。枠に入りません
  • 法的保護に関する科目を誰に頼むかを、いま決めます。社内の人では務まりません
  • 自社の分野別運用方針を開き、日本語能力の水準が一般の水準より高くないかを確かめます
  • 委託するなら、中身を誰が決めるかを契約書に書きます
  • 海外側で何をどこまでやったかが日本側に届く経路を、一つ決めておきます
  • 就労開始後も講習を続けるなら、参加が任意か業務かを先に決め、賃金の扱いを合わせます

前倒しは日程を縮める道具ですが、縮むのは前倒しできる部分だけです。縮まない部分を先に切り分けておけば、計画は崩れません。


この記事で引いた原本

  • 育成就労法施行規則 第13条第2項第7号(科目、前倒しの定義、形式、実施主体、実施時期)
  • 育成就労制度運用要領(科目の解説、外部講師の要件、法的保護科目の講義内容、座学の意味、オンラインの可否、入国前講習が未了の場合の取扱い、就労開始時期との関係、就労開始後の講習と労働時間、商品生産施設での見学の範囲、教材、「一定の日本語能力」の水準、外国の教育機関の定義)

制度は改正されます。この記事の内容は時点注記の日付時点のもので、実際の計画にあたっては最新の条文・運用要領・分野別運用方針をご確認ください。具体的な時間数と要件は、必ず原本をご確認ください。労働時間や賃金の扱いに関わる判断は、社会保険労務士または弁護士にご相談ください。


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本記事は2026年9月時点の法令・行政資料に基づきます。

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