育成就労の日本語要件A1・A2とは、実際どのくらいのレベルか
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制度の説明を読むと、日本語の水準が「A1相当」「A2」といった記号で書かれています。
この記号を見て受け入れる側が知りたいのは、その人がうちの現場で何ができるのか、という一点でしょう。ところが記号は、そこを教えてくれません。A1が A2より低いことは分かりますが、A1の人に何を頼めて何を頼めないかは、記号の形からは出てきません。
記号を記述文に戻すと、条件と限定が見えます
A1・A2という記号には、それぞれ元になった説明文があります。文化庁がまとめた「日本語教育の参照枠」の、全体的な尺度と呼ばれる部分です。そこを読むと、記号には書かれていない条件が付いていることが分かります。
- A1には、成立の条件が三つ付いています。相手がゆっくり話すこと、はっきり話すこと、助け船を出すことです
- A2には、範囲の限定が付いています。「簡単で日常的な範囲なら」という限定と、扱える領域の列挙です
どちらの水準も、通常の速さの日本語が通じることを前提にしていません。要件を満たした人が入国しても、現場の会話がそのまま成立するとは限らないので、受け入れる側はこの点を先に知っておく必要があります。
A1・A2は何の目盛りか
日本語教育の分野でA1・A2という記号を使うとき、参照されているのは文化庁の「日本語教育の参照枠」です。同庁の資料は、この枠組みをこう説明しています。
CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)を参考に、日本語の習得段階に応じて求められる日本語教育の内容・方法を明らかにし、外国人等が適切な日本語教育を継続的に受けられるようにするため、日本語教育に関わる全ての者が参照できる日本語学習、教授、評価のための枠組み。
構成についても説明があります。
日本語の学習・教授・評価を考える際に必要になる、日本語のレベルを示した全体的な尺度と、「聞く」「読む」「話す(やりとり・発表)」「書く」の言語活動別に実生活において日本語を使ってどんなことができるかを表した言語能力記述文(Can do)を示すもの。
全体を一言で表した尺度と、「聞く」「読む」「話す」「書く」ごとの細かい記述の二層があり、この記事で読むのは前者のほうです。
なお、この記述文は CEFR そのものの訳ではありません。資料自身が「CEFR日本語版(追補版)の訳文を基にし、CEFR補遺版を参考に一部修正を加えた」と書いているので、日本語教育のために調整された版として読んでください。
A1を読む
A1の記述文は、次のとおりです。
A1(基礎段階の言語使用者) 具体的な欲求を満足させるための、よく使われる日常的表現と基本的な言い回しは理解し、用いることもできる。もし、相手がゆっくり、はっきりと話して、助け船を出してくれるなら簡単なやり取りをすることができる。
この記述文は、二つの文に分かれています。
前半で扱えるのは「日常的表現と基本的な言い回し」
前半が対象にしているのは「よく使われる日常的表現と基本的な言い回し」で、それが役に立つ場面として「具体的な欲求を満足させるための」という限定が付いています。
業務の言葉は、ここに入っていません。その職場の設備の名前や工程の名前、社内で使われている略語は「よく使われる日常的表現」ではないので、A1の記述が保証する範囲の外にあります。
後半には三つの条件が付いている
後半は、「もし、相手がゆっくり、はっきりと話して、助け船を出してくれるなら」という条件節から始まります。条件は次の三つです。
- 相手がゆっくり話す
- 相手がはっきり話す
- 相手が助け船を出す
この三つが揃ったときに「簡単なやり取りをすることができる」と書かれているのですから、裏返せば、どれかが欠けたときにやり取りが成立する保証はないことになります。
現場を思い浮かべてください。忙しい時間帯の指示は速く、省略が多く、語尾が落ちがちです。聞き返されたときに言い直す余裕もありません。三つの条件が同時に外れやすい時間帯が、毎日あるわけです。
A1相当の人が「研修では答えられたのに現場では黙る」という状態は、本人の問題というより、記述文に書かれた条件が外れている状態として理解できます。
A2を読む
A2の記述文は、次のとおりです。
A2(基礎段階の言語使用者) ごく基本的な個人情報や家族情報、買い物、近所、仕事など、直接的関係がある領域に関する、よく使われる文や表現が理解できる。簡単で日常的な範囲なら、身近で日常の事柄についての情報交換に応じることができる。
A1より広がっていますが、広がり方には形があります。
領域が列挙されている
「個人情報や家族情報、買い物、近所、仕事など、直接的関係がある領域」として並んでいるのは、本人の生活に直接つながっている範囲です。「仕事」も入っていますが、その前には「ごく基本的な」が掛かっています。
「簡単で日常的な範囲なら」という限定
後半にも「簡単で日常的な範囲なら」という限定が付いています。A1の「ゆっくり・はっきり・助け船」ほど具体的ではありませんが、やり取りが成立する範囲に枠があることは同じです。
「応じることができる」と書かれている
細かいようですが、重要な点です。後半の述語は「情報交換に応じることができる」で、自分から情報交換を始めるとは書かれていません。
現場に置き換えると、聞かれたことに答えることはできても、異常に気づいて自分から報告を上げることは、この記述文の保証の外にあるということです。この差は、安全に関わる場面でそのまま効いてきます。
試験の点数との対応について
日本語能力試験(JLPT)の成績書類に、CEFRレベルの参考表示が加わりました。公式サイトの説明によると、2025年第2回(12月)試験からで、N5では総合得点80点以上がA1、N4では総合得点90点以上がA2と表示されます。
記号と試験を結ぶ手がかりにはなりますが、この表示には、公式サイト自身が明記している重い限定があります。
(3)CEFRレベルは、JLPTで測っている能力について、参考表示されます。JLPTで測る「言語知識」「読解」「聴解」は、CEFRの「言語能力」と「受容活動能力」に当たります。JLPTで測定していない「産出活動(話す・書く)」「やりとり」等の能力は含まれていません。
ここは読み落とせない点です。「A2と表示された」ことは、「A2の記述文どおりに話せる」ことを意味しません。表示の根拠になっているのは、読む力と聞く力だけです。
一方で、この記事で読んできた記述文のほうは、「やり取りをすることができる」「情報交換に応じることができる」という、まさに試験が測っていない側を含んでいます。整理すると、次のようになります。
| 記述文が書いていること | 試験の表示が根拠にしていること | |
|---|---|---|
| 理解(読む・聞く) | 含む | 含む |
| 産出・やりとり(話す・書く) | 含む | 含まない |
成績書類の表示を見て、話せる度合いまで推し量ることはできません。話す力と書く力は、自社で確かめるしかない領域として残ります。
なお、この表示は当初の予定より開始が遅れています。2025年7月以前の合格者の成績書類にはこの表示がありませんが、手元の書類に無くても、それは不合格を意味しません。
級そのものが何を保証して何を保証しないかは、こちらに整理しました。
現場で何を想定しておくか
ここまでの内容を、受け入れる側の準備に置き換えると、四つのことが言えます。
まず、通常の速さを前提にしないことです。A1の記述文が明示している条件は、ゆっくり・はっきり・助け船の三つで、これは本人への要求ではなく、話す側への要求として書かれています。現場の話し方を変えないまま「要件を満たした人が来る」と考えると、見込みが外れます。
次に、助け船を出す人を決めておくことです。条件の三つめは、誰かがその場にいることを前提にしており、決めていなければ誰も出しません。分からないときに誰へ聞くかを決めることは、この条件を職場の側で満たすことでもあります。
三つめに、業務の言葉は別に渡すことです。どちらの記述文も、扱える語として日常的な範囲を挙げています。その職場でしか使わない言葉は、制度の要件を満たしたかどうかとは無関係に、会社が渡すしかありません。
四つめに、「応じる」はできても「始める」はできない前提で組むことです。報告や相談を本人からの発信に頼らず、こちらから口火を切る形にしてください。定時の声かけ、チェックのタイミング、聞き返しの習慣は、いずれも記述文が保証していない部分を職場の側で補う仕組みです。
この四つは、いずれも研修では埋まらず、職場の側で決めるものです。何を決めるべきかの全体像は、こちらにまとめました。
→ 外国人社員の日本語は、研修では解決しません|職場の側で決める五つのこと
期待の位置ではなく、期待の中身を直す
記述文を読んだあとで、「思っていたより低いのか」と受け取る方がいますが、そういう話ではありません。
A1は条件つき、A2は範囲つきで、どちらの記述文も、できることを具体的に書いています。書かれていないことを期待していたのは、受け入れる側のほうです。
ですから直すのは、期待の位置(高いか低いか)ではなく、期待の中身(何ができて、何がまだか)です。中身が正確になれば、来る前に何を準備すべきかが決まります。逆に、位置だけを下げると「まだ無理だ」という結論になり、準備は進みません。
経営者が明日できること
- 求人票や社内資料に「A1相当」「A2」とだけ書いてある箇所を探し、記述文の要点を一行足してください。「ゆっくり・はっきり話し、助け船を出せば簡単なやり取りができる水準」と書くだけで、受け取り方が変わります
- 忙しい時間帯の指示を録音して聞き直し、ゆっくり・はっきりの二つが満たされているかを自分の耳で確かめてください
- 助け船を出す担当を、持ち場ごとに決めます
- 本人からの報告を待つ前提になっている業務がないか洗い出し、こちらから聞く形に変えます
- 試験の成績書類を見るときは、話す力と書く力が含まれていないことを前提に読みます
この記事で引いた資料
- 文化庁「『日本語教育の参照枠』の概要」(全体的な尺度のA1・A2、枠組みの位置づけ、尺度の構成)
- 日本語能力試験 公式サイト「CEFRレベル参考表示」(対応する得点、測定範囲の限定)
いずれも公表資料からの引用です。参照枠の記述文は CEFR 原文の訳ではなく、日本語教育のために調整された版である旨を、資料自身が明記しています。制度も試験の運用も改正されます。この記事の内容は時点注記の日付時点のもので、実際の判断にあたっては最新の公表資料をご確認ください。
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