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違約金を定める契約は、なぜしてはいけないのか|転籍を止める手段にはならない

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「育成にお金をかけたのに、途中で辞められたら困る」

もっともな心配で、その対策として、途中で辞めた場合に違約金を払ってもらう約束を思いつく方もいます。保証金を預かる、給与の一部を積み立てさせる、といった形も同じ発想から出てくるものです。

しかし、これらはどれも禁じられています。「無効だから効き目がない」という話にとどまらず、した側が罰則の対象になる行為です。

これは「効かない約束」ではなく、禁止されている行為です

押さえておくべきことは3つあります。

  1. 違約金の定めも、損害賠償額をあらかじめ決めておく契約も、禁じられている
  2. 禁止は名目を問わず、保証金でも積立でも同じ扱いになる
  3. 本人との契約だけが対象ではなく、家族との契約も、送出機関との契約も含まれる

そのうえで、人が辞めることへの備えは別のところにある、という点も最後に取り上げます。

誰に、何が禁じられているのか

条文の作りを知っておくと、話が整理しやすくなります。禁止は2つの法律にまたがっています。

育成就労制度運用要領によれば、育成就労法第47条は、監理支援者等(監理支援を行う者とその役員・職員)に対して、育成就労外国人等との間で契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をすることを禁じています。同条第2項は、貯蓄の契約をさせることと、貯蓄金を管理する契約をすることも禁じています。

注意が要るのは、運用要領が、この条は育成就労実施者(=受入企業)を対象としていないと明記している点です。

では受入企業は自由かというと、その逆です。運用要領は続けて、使用者である育成就労実施者については労働基準法第16条(賠償予定の禁止)および第18条(強制貯金)の適用があるとし、これらに違反した場合の罰則も、育成就労法と同様の量刑になっていると書いています。

労働基準法第十六条は、次のように定めています(出典は e-Gov 法令検索の労働基準法で、同じ条文が運用要領にも「労働基準法(抄)」として引かれています)。

使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

監理を担う法人は育成就労法で、受入企業は労働基準法で、同じ行為を禁じられていることになります。どちらの側にも逃げ道はありません。

なお、労働基準法第十七条は前借金と賃金の相殺を禁じています。こちらは運用要領に引用が無く、当社は条文の出所を e-Gov の法令データでしか確認していません。育成就労の文脈での扱いを述べた記述には到達していないため、この記事ではこれ以上踏み込みません。

受入企業が気をつけるのは、労働基準法のほう

実務で効いてくるのはこちらです。「育成就労法を読んだが、うちは対象外だった」で終わらせると、判断を誤ります。

受入企業に適用されるのは労働基準法で、その禁止は外国人にだけ向けられたものではありません。日本人社員に対する同じ約束も、同じく禁止されています。そのため、点検の範囲も外国人の雇用契約に限られません。就業規則や誓約書の中に、研修費の返還や退職時の違約金を定めた条項が無いかを見てください。

「保証金」も同じ扱いになる

名目を変えれば通る、という話でもありません。運用要領は次のように明示しています。

保証金の徴収は、法第 47 条が禁止する「育成就労に係る契約の不履行について違約 金を定め、又は損害賠償額を予定する契約」に該当するものであり、禁止されています。

さらに、保証金の徴収その他名目のいかんを問わず、本人や親族等の金銭その他の財産を管理することがあってはならないとしています。「預かっているだけ」の場合も含まれ、返す前提であっても、管理すること自体が対象になります。

本人以外との契約も対象になる

見落とされやすい点ですが、禁止の対象は本人との契約に限られていません。運用要領が引く育成就労法第47条は、本人の配偶者、直系または同居の親族、その他本人と社会生活において密接な関係を有する者との間の契約も並べています。「本人とは契約していない」という形は、抜け道になりません。

送出機関に違約金を設定することも、あってはならない

禁止はもう一段先にも及びます。運用要領は、監理支援機関が外国の送出機関に対して違約金等の設定を行うことについても、次のように書いています。

育成就労外国人が育成就労に係る契約の不履行をした場合を想定して、監理支援機関 が外国の送出機関に対して違約金等の設定を行うことは、育成就労外国人等との直接の 契約でなくとも、違約金を払う立場の外国の送出機関が育成就労外国人等から保証金や 高額な手数料等を徴収するおそれがあるため、育成就労外国人の保護の観点からあって はならないものです

理由まで書かれているところが重要で、直接の契約でなくても、しわ寄せが本人に行くから認められない、という構造になっています。

運用要領は、技能実習制度で監理団体がこうした契約を結んだことにより許可の取消しの対象となった事例があることにも触れ、送出機関との契約を結ぶ際は内容を十分に確認するよう求めています。

受入企業から見れば、これは相手選びの確認項目になります。監理を担う法人と送出機関の契約に、こうした定めが無いかを聞いてください。出典は育成就労制度運用要領です。本人が送出機関へ支払う手数料の上限そのものは送出機関への手数料の記事で扱っています。

旅券や在留カードを預かることも、同意があっても禁止

同じ節に並んでいるので、あわせて押さえておきます。

運用要領によれば、育成就労法第48条は、旅券または在留カードを保管することを禁じています。この条は、第46条・第47条と違って育成就労実施者も対象に含み、運用要領は本人の同意の有無や理由によらず禁止されると明記しています。

私生活の自由の不当な制限も禁じられており、運用要領は具体例を挙げています。私物の取り上げ、外出の一律禁止(合理的な理由のない一律の門限を含む)、男女交際の禁止、妊娠しないことの誓約、医療機関の受診を阻害する行為、居室へのカメラ設置などです。「本人が納得している」ことは、根拠になりません。

では、人が辞めることにどう備えるのか

禁止の説明だけで終わると、最初の心配が残ったままになります。備え方の基本は、辞めにくくすることではなく、辞めても回るようにすることです。

発想 具体的には
縛るのではなく、選ばれる 定着は待遇と職場の設計で決まる(転籍を前提にした設計の記事)
流出に備える 人が抜ける前提で、業務と教育を組み直す(転籍のリスクに備える記事)
費用は制度の仕組みで回収する 転籍時の費用には按分の仕組みがある(転籍時の費用の記事)

とくに効くのは3つ目です。「育成にかけた費用が丸損になる」という前提自体が、制度の側では成り立っていません。違約金で取り返そうとしなくても、制度に用意された経路があります。

経営者が明日できること

  1. 雇用契約書・誓約書・就業規則を開いて、退職や途中離脱に金銭を結びつけた条項が無いかを探す。研修費の返還条項も含めて見てください。
  2. 預かっている金銭や物がないかを確認する。保証金、積立、旅券、在留カードのいずれも、返す前提でも対象です。
  3. 監理を担う法人に、送出機関との契約に違約金の定めが無いかを聞く。自社の契約ではありませんが、しわ寄せは自社の現場に来ます。

この3つは、見つかれば直せます。見つからないまま運用が続くほうが危険です。

制度は改正されます。この記事の内容は時点注記の日付時点のもので、実際の判断にあたっては最新の条文と運用要領をご確認ください。特に労働基準法の条文については、当社は原本の保存を伴う確認をしていません。条文そのものに当たる必要がある場合は、e-Gov 法令検索でご確認ください。

受入れの設計についてのご相談はお問い合わせからどうぞ。

本記事は2026年9月時点の法令・行政資料に基づきます。

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