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転籍時の費用は誰が負担するのか|按分の仕組みと、まだ決まっていないこと

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採用に費用をかけ、住まいを用意し、教育の時間を割いてきた社員が転籍したら、かけた費用はどうなるのか。

制度には補填の仕組みがあります。ただし、いくら戻るかは、現時点では計算できません。計算式の片方は確定していますが、もう片方がまだ定められていないからです。この記事では、その線引きを整理します。

比率は確定していますが、基礎となる額は未定です

補填の額は、二つの要素の掛け算で決まります。

要素 状態
在籍した期間に応じた比率 省令で確定・公布済み
その比率を掛ける、基礎となる額 まだ定められていません

片方が決まっていない以上、掛け算の答えは出ません。「調べれば分かるが面倒」という種類の話でもなく、出入国在留管理庁が自ら、まだ定めていないと公表しています。

補填の仕組み

まず、仕組みそのものを確認しておきます。

本人の意向による転籍が起きたとき、転籍先の受入れ機関が、転籍元の受入れ機関へ一定額を支払う形になっています。転籍元が受入れに要した初期費用を、転籍先が一部負担する設計です。

根拠は育成就労法施行規則第28条第7号です。出典は、同規則(法務省・厚生労働省令第四号)の官報写しです。

期間に応じた比率

比率は、その社員が転籍元に在籍していた期間で決まります。1回目の、本人の意向による転籍の場合は次のとおりです。

在籍した期間 比率
一年以上一年六月未満 六分の五
一年六月以上二年未満 三分の二
二年以上二年六月未満 二分の一
二年六月以上 四分の一

2回目の転籍の場合は、別の表が用意されています。

転籍元にいた期間 通算の期間 比率
一年以上一年六月未満 二年以上二年六月未満 五分の三
一年以上一年六月未満 二年六月以上 十分の三
一年六月以上二年未満 二年六月以上 八分の三

この比率は省令に書かれた確定値で、おおよその目安ではありません。出典は上と同じ規則で、同じ表が育成就労制度運用要領にも収録されています。なお、算出した額に千円未満の端数があるときは、その端数は切り捨てると規定されています。

この表からは、二つのことが読み取れます。

まず、早く抜けるほど転籍先の負担は重くなります。在籍が短いほど比率が大きく設定されているのは、転籍元がまだ費用を回収できていない段階だからです。

また、表は一年以上から始まっています。それより短い期間の区分がないのは、転籍が認められるようになるまでの期間の内側にあたるためです。分野ごとの期間は別の記事に書きました。

→ 分野ごとの期間の一覧はこちら

基礎となる額は、まだ定められていません

上の比率は、ある額に対して掛けるものです。その額について、省令は、育成就労外国人の取次ぎおよび育成に係る費用として法務大臣および厚生労働大臣が告示で定める額、と定めています。額そのものは省令に書かれておらず、別の形式に委ねられているということです。

出典は出入国在留管理庁「育成就労制度Q&A」(Q55の答)で、次のように書かれています。

この一定の金額は、主務大臣が告示で定める金額に対し、育成就労外国人が在籍していた期間に応じた按分率を乗じて算出することになります。この告示は今後制定する予定です。

「今後制定する予定です」とあるとおり、額を定めるものはまだ存在していません。

これが経営判断に効く

補填の見込み額を、事業計画に数字として載せることはできません。比率だけが分かっていて、掛ける相手がないからです。

よくある誤りは、自社が実際にかけた初期費用に比率を掛けて見積もることです。基礎額は自社の実費とは別の考え方で定められるので、実費に比率を掛けた数字は制度上の根拠を持ちません。

いまの段階でできるのは、次の二つです。

  • 比率の構造だけを前提に置く。早く抜けるほど転籍先の負担が重い、という方向は確定しています
  • 額が定まったときに読み替えられる形で、計画を書いておく。「補填見込み額=基礎額×比率」と式のまま書き、基礎額の欄は空けておきます

送出機関への費用は、別の話です

転籍の補填と混同されやすいものに、送出機関への費用がありますが、これは別の制度です。

本人が外国の送出機関に支払う費用には上限があり、育成就労計画に記載された報酬の月額に二を乗じて得た額を超えないこととされています。根拠は育成就労法施行規則第21条で、法律(第9条第1項第11号)は省令への委任のみです。二国間の取決めではなく、省令で定められている点に注意してください。出典は同規則および育成就労制度運用要領です。

運用要領には、上限を超える分は受入れ側が負担するという制度設計の説明もあります。

送出しに要した費用が法定された上限を超える場合には、超過分を受入れ側が負担することにより、本邦に入国しようとする育成就労外国人の経済的負担を軽減する

ただし、この記述は規定の趣旨を説明する文の中にあり、受入れ側の誰が負担義務を負うかを名指しした規定ではありません。原本から確認できるのは、本人には負担させられないという禁止と、超過分を受入れ側が負担するという制度設計の説明までです。

この費用は、転籍が起きるかどうかとは関係なく、受入れの入口で発生します。転籍の補填と同じ帳簿の欄には入れないでください。

いま確定できることと、できないこと

ここまでの内容を表にまとめます。

状態
期間に応じた比率 確定(省令・公布済み)
端数の処理 確定(千円未満切り捨て)
比率を掛ける基礎額 未定(告示が未制定)
補填の見込み額 算出できない
送出機関に対して本人が支払う費用の上限 確定(報酬の月額の2か月分)
上限超過分の負担者 受入れ側と説明されている。負担主体を名指しした規定は確認できず

経営者が明日できること

  • 社内の資料で「転籍時に◯◯円戻る」と書いている箇所を探し、根拠を確認してください
  • 比率の表は、そのまま社内資料に写してください。省令の確定値なので、「約」は付けません
  • 補填の見込みは式のまま書いておき、基礎額の欄は空欄にして、告示が出たら埋めます
  • 送出機関への費用は、転籍の補填とは別の欄で管理します
  • 告示が制定されたかを定期的に確認する担当を決めておきます

補填の仕組みがあることと、補填額が分かることは別です。式の片方が空いている状態は、空いているまま扱ってください。埋めた数字で計画を立てると、告示が出たときに全部やり直しになります。


この記事で引いた原本

  • 育成就労法施行規則 第28条第7号(比率の表・端数処理)
  • 育成就労法施行規則 第21条、育成就労法 第9条第1項第11号(本人が支払う費用の上限)
  • 育成就労制度運用要領(比率の表、本人が支払う費用の解説)
  • 出入国在留管理庁「育成就労制度Q&A」Q55(告示が未制定であること)

制度は改正され、告示は今後制定されます。この記事の内容は時点注記の日付時点のもので、実際の判断にあたっては最新の条文と公表資料をご確認ください。


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本記事は2026年9月時点の法令・行政資料に基づきます。

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