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本人の意向による転籍は、何を満たせば成立するのか

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「本人が希望すれば転籍できる」という言い方をよく聞きますが、実際には条件が付きます。しかもその条件は、本人の側だけでなく、受け入れる会社の側にも付いています。

人を出す側から見れば「どこまで持ちこたえられるか」、受け入れる側から見れば「そもそも受けられる会社なのか」という話になります。この記事では、両方の立場から読めるように整理します。

条件は3方向にあります

本人の意向による転籍には、3つの方向の条件があります。

方向 何を満たすか 誰の問題か
時間 転籍を制限する期間を過ぎていること 本人と転籍元
能力 技能と日本語能力の試験に合格していること 本人
相手 転籍先が一定の基準を満たしていること 転籍先

見落とされやすいのは3つ目です。受け入れる側にも資格が要るため、「人が来たいと言っているから受ける」というわけにはいきません。

なお、やむを得ない事情があると認められる転籍では、この3方向の条件がすべて外れます(やむを得ない事情による転籍の記事)。この記事で扱うのは、外れないほうの転籍です。

手続きは、本人が申し出て、転籍先が申請する

まず順番を押さえておきます。本人が転籍を希望する旨を申し出て、その後、転籍先となる会社が新たな育成就労計画の認定申請を行い、機構の認定を受けます。

手続きをするのは転籍元ではありませんが、転籍元にも関連して1つ義務があります。

育成就労外国人から育成就労計画の写し等の交付を求められた育成就労実施者は、これを拒否することはできません。

転籍先は、転籍元の名称や育成就労の期間を従前の計画の写しで確認する必要があり、その写しは本人や監理支援機関から入手します。本人の同意があれば転籍元に問い合わせても構わないとされていますが、事前に本人の希望を確認するよう求められています。

時間の条件は、分野の値だけでは決まりません

転籍を制限する期間は、分野別運用方針が1年以上2年以下の範囲で定めます。ただし、実務上いちばん効く注意点があります。出典は育成就労制度運用要領です。

分野別運用方針において転籍制限期間が2年と定められている分野においても、個々の育成就労実施者の判断で当該期間を1年とすることができます。

分野の値がそのまま自社の値になるとは限らず、実際の期間は、転籍元の育成就労計画の「育成就労実施者の変更を制限する期間」の欄で決まります。分野別の値の一覧は分野別の制限期間の記事にありますが、個別の計画を見ないと本当の期間は分かりません。

また、一度転籍した後に再び本人意向で転籍する場合は、転籍後の会社のもとで改めて制限期間を経過する必要があります。

能力の条件では試験の合格が要り、妨害は取消事由になります

本人には、一定の水準の技能を修得していることと、一定の水準の日本語能力を有することが求められます。具体の水準は分野別運用方針に委ねられており、運用要領は技能試験と日本語能力の試験に合格している必要があるとしています。

これに関して、受入企業が知っておくべき規定があります。

育成就労実施者が、転籍を妨害するためにこれらの試験を受けさせない、受験を妨害するなどの行為は、育成就労計画の認定の取消事由となり得ます。  また、そのような行為が認められた時点で、育成就労外国人の権利を侵害するものとして上記(2)のやむを得ない事情があるものとして転籍が認められ得ます。

妨害すれば、認定を失ううえに、条件なしで転籍される側に回ります。止めようとした結果、かえって止められない形になるわけです。

試験実施機関が事業所に出向いて行う試験については、試験場所の提供等の協力を行う必要があり、提供しないことは試験を受けさせない行為と認められ得るとされています。ただし、生産ラインが止まって経営に重大な影響を及ぼすなど著しく困難な事情がある場合は、他の適切な試験場所を手配する等の措置も認められます。

なお、育成就労の期間を延長して3年を超えている場合は、本人意向の転籍は認められません。

相手の条件として、受け入れる側にも5つの条件があります

受入企業にとっての本題はここで、省令は転籍先に5つの条件を課しています。

1つめは、転籍者ばかりの会社ではないことです。認定の時点で、通常の認定を受けた計画に基づく育成就労外国人に育成就労を行わせている必要があり、転籍者だけを集めることはできません。

2つめは、本人意向転籍者の割合が一定以下であることです。在籍する育成就労外国人の総数のうち、本人意向で転籍してきた人の割合が3分の1を超えないこと、加えて、会社の住所が指定区域(地方圏)にない場合は、指定区域から転籍してきた人の割合が6分の1を超えないことが求められます。運用要領の表から、始まりの部分を引きます。

転籍成立後に在籍する育成就労外国人の総数 受け入れられる本人意向転籍者の上限 指定区域内から指定区域外への転籍者の上限
1人 0人(受入れ不可) 0人(受入れ不可)
2人 0人(受入れ不可) 0人(受入れ不可)
3人 1人 1人
6人 2人 1人
9人 3人 1人
12人 4人 2人

割合の制限なので母数が小さいと0になり、在籍が2人以下の会社は、本人意向転籍者を受け入れられません。

計算から除かれる人もいます。やむを得ない事情で転籍した人、期間を延長した人、妊娠・出産等により中断していた人です。また、指定区域外の会社が指定区域内から受け入れる場合、在籍が5人以下なら1人までは受け入れられるという例外があります(3分の1の制限は変わりません)。

3つめは、優良な育成就労実施者であることです。

本人意向転籍者を受け入れる育成就労実施者は、本人意向転籍者に係る新たな育成就労計画の認定を申請する時点及び当該計画に基づく育成就労の開始時点のいずれにおいても……優良な育成就労実施者である必要があります。

申請時と開始時の両方で必要になる点に注意してください。優良の認定については優良な育成就労実施者の記事をご覧ください。

4つめは、民間の職業紹介事業者等を関与させていないことです。次のいずれかが確認されると、認定を受けられません。

  • 監理支援機関、機構、ハローワーク、地方運輸局以外の者が行う職業紹介を受けたこと
  • 特定募集情報等提供事業を行う者が行う特定募集情報等提供を受けたこと
  • 本人がそうした提供を受けたこと
  • 過去1年以内に、主として育成就労外国人に向けた特定募集情報等提供を依頼したこと

「特定募集情報等提供事業を行う者」には、厚生労働大臣への届出を行っていない者も含まれると明記されているため、届出の有無で判断すると見誤ります。

5つめは、初期費用を補填することとしていることです。転籍元が受入れに要した初期費用の一部を、転籍先が補填します。按分の仕組みは転籍時の費用の記事で扱っているので、ここでは手続きの側を挙げます。

  • 支払うことを、新たな計画の認定申請において誓約する
  • 誓約に反して支払わなかった場合は、虚偽の申請として認定の取消しの対象となり得る
  • 認定後6か月以内に、支払いを証明する書類を機構に提出する
  • 転籍元に初期費用がかかっていない場合(やむを得ない事情で転籍してきた人など)は、補填は不要

転籍元の側にも作業があり、受入れに要した費用の領収書等を保管する必要があると明記されています。人を送り出す側になったとき、記録が無いと請求できません。

転籍先にも、通常の認定基準がそのままかかる

見落とされやすい点ですが、上の5つは追加の条件であり、通常の認定基準が免除されるわけではありません。通常の基準のうち外れるのは、次の2つだけです。

  • 育成就労の期間が3年であることとする基準(転籍後の期間は、3年から過去の同一業務区分の期間を除いた期間になるため)
  • 送出機関に支払った費用に関する基準(国内の転籍では不要なため)

それ以外はすべてかかります。3つの役割の選任も、非自発的離職の要件も、同等以上の報酬も、宿泊施設の基準も同じです。

期間の数え方にも注意が要ります。除かれるのは同一の業務区分における期間だけで、異なる業務区分の期間は除かれません。計画を中断していた期間も含まれません。

当社が確認できていないこと

この記事は全ルールを網羅したものではなく、数値の一部はまだ台帳にありません。

  • 転籍を制限する期間の分野ごとの値は、分野別運用方針に委ねられています。当社は分野別運用方針を取得できていません
  • 技能試験・日本語能力の試験の水準も、同じく分野別運用方針に委ねられています
  • 補填額の基礎となる額を定める告示は、いまも未制定です
  • 「指定区域」を定める告示そのものにも到達していません。条文には「法務大臣及び厚生労働大臣が告示で定める区域」という文言までしかありません
  • 割合の上限の「(計算式)」は、原本では図であり、テキストから読み取れないため転記していません。上の表は転記できています

分野ごとの数値が必要な場面では、分野別運用方針を直接ご確認ください。

経営者が明日できること

  1. 自社の育成就労計画の「育成就労実施者の変更を制限する期間」の欄を見る。分野の値ではなく、この欄が本当の期間です。
  2. 受け入れる側に回る可能性があるなら、優良な実施者であるか、在籍者数が割合の制限に耐えるか、通常の認定基準を満たせるか、の3つを確かめる。
  3. 受入れに要した費用の領収書を保管しているかを確かめる。人を送り出す側になったとき、補填を受ける根拠になります。

試験を受けさせないという選択肢はありません。認定を失い、条件なしの転籍を招くことになります。人が入れ替わる前提の設計については転籍を前提にした設計の記事を、流出への備えは転籍のリスクに備える記事をご覧ください。

制度は改正されます。この記事の内容は時点注記の日付時点のもので、実際の判断にあたっては最新の条文と運用要領、および分野別運用方針をご確認ください。

受入れ体制のご相談はお問い合わせからどうぞ。

本記事は2026年9月時点の法令・行政資料に基づきます。

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