日本語教育

社内で教えるか、外部に任せるか|判断の基準

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「日本語教育は、うちでやるべきでしょうか。外に頼むべきでしょうか」

この問いには、そのまま答えないほうがよいと考えています。日本語教育は、一つの仕事ではないからです。

まとめて内製すると、決めるべきことを決める人が社内にいないまま進みます。まとめて外注すると、外からは決められないことまで預けることになり、それは返ってきません。どちらも、よくある失敗です。

二択にせず、仕事を分けてから決めます

日本語教育を、次の五つの仕事に分けて考えます。

仕事 外に出せるか
一 何を教えるかを決める(自社の場面と言葉の選定) 出せない
二 教材と手順を作る 出しやすい
三 実際に教える 出しやすい
四 測る 半々
五 続ける(記録・引き継ぎ・改定) 出せない

外に出せないのは、一と五です。ここを預けたつもりになると、外注しても結果が出ません。逆に、二と三では外の力がはっきり効きます。以下、分けたそれぞれについて、判断の仕方を書きます。

一と五を、なぜ外に出せないのか

何を教えるかは、自社の現場にしかありません

その職場で使う言葉、起きる場面、判断させてはいけない境目は、外部の講師には見えません。見えないものを決めることはできないので、預けると一般的な内容が返ってきます。

「研修を入れたのに現場が変わらない」という状態は、たいていここで起きています。決めていないことを外注した結果です。決めるべきことの全体像は、こちらに整理しました。

→ 外国人社員の日本語は、研修では解決しません|職場の側で決める五つのこと

続けることは、契約では買えません

記録を残すこと、教える人が替わっても引き継ぐこと、業務が変わったら中身を直すこと。これらは日々の運用なので、外部との契約期間とは別の時間軸で動きます。

外注先が変わっても続きが分かる状態にしておくのは、社内の仕事です。ここが無いと、委託が切れた時点でゼロに戻ります。

社内で教えるほうが向いている場合

次の条件が揃っているほど、内製が向きます。

まず、教える中身が自社の業務に強く依存している場合です。現場の言葉、自社の手順、自社の設備など、一般の教材に無いものほど、社内でしか教えられません。

次に、教えられる人が現場にいて、その時間を業務として確保できる場合です。「できる人がいる」だけでは足りず、その人の時間を業務として空ける決定が要ります。これが無いと、善意で始まり、忙しくなって止まります。

記録と引き継ぎの仕組みがあることも条件です。誰に何をどこまで教えたかが残る形になっているかを確かめてください。属人的に進むと、その人が抜けた時点で終わります。

さらに、制度上の時間数の要件がかからないか、社内で満たせる範囲に収まることです。育成就労で受け入れる場合、認定日本語教育機関の課程で履修することが原則ですが、規則の附則により、当分の間は登録日本語教員が実施する一定の授業も同じものとみなされます(同時に授業を行う生徒の数が二十人以下であることなどの条件があります)。内製の余地が、制度上まったく無いわけではありません。要件の性質そのものは、こちらに整理しました。

→ 日本語教育支援は義務か努力義務か|2つの制度が別々に存在する

外部に任せるほうが向いている場合

制度上の時間数を満たし、それを示す必要がある場合は、外部が向いています。満たしたことの記録と証明まで含めて引き受けてもらえるなら、外に出す価値ははっきりしています。

母語別のつまずきへの対応が要る場合もそうです。母語によってつまずく場所は違い、その見分けには専門の知識が要ります。社内で独学して身につけるより、持っている人に頼むほうが早く済みます。

→ 母語が違えば、つまずく場所が違う|多国籍の職場での教え方

教えられる人が社内に一人しかいない場合も、外部を検討してください。一人だけの状態は内製ではなく属人化で、その人が抜けると止まります。外に出すか、社内で二人目を育てるまでの間だけ外に出すか、どちらかを選びます。

発音のように、素人の判断で直すと悪化しうる領域も同様です。聞き分けができていない段階で言い方を直させると、癖が固まることがあります。ここは専門の領域です。

外に任せるべきでない場合

ここは具体的に書きます。次に当てはまるとき、外注は効きません。

決めていないことを外注しようとしているときがその一つです。「何を教えてほしいか」を聞かれて答えられない状態で発注すると、一般的な内容が返ってきます。決めるのが先で、発注は後です。

確認や報告の規範を教えてほしいときも、外注は効きません。分からないときに聞きに行けるかどうかは、語学力ではなく職場の条件です。聞きに行って嫌な顔をされる職場では、外部が何を教えても変わりません。

→ 「多分大丈夫です」が現場でいちばん危ない言葉である理由

→ 緊急時に「様子を見ましょう」と言わせない教え方

評価まで丸ごと預けようとしているときも同じです。何をもって「できた」とするかは、自社の業務が決めます。外の基準で測ると、点数は出ても打ち手が出ません。

→ 外国人社員の日本語を、何で評価すればよいのか|4つの軸

社内の不満を外に流したいときもそうです。「現場が教えてくれない」という問題を外注で解決しようとすると、外部の講師と現場の間に溝ができます。教えない理由が時間なのか、姿勢なのか、指示が無いからなのかを先に確かめてください。

最後に、一度きりで終わらせたいときです。日本語教育は一度の研修で片づく性質のものではなく、続ける仕組みが無いまま単発で頼むと、費用だけが残ります。

外注先を選ぶときに聞く、五つの質問

外に出すと決めた場合は、選ぶときに次のことを聞いてください。

  1. うちの業務の言葉を、どうやって拾いますか。「持ち込んでください」と言われたら、一の仕事は社内に残ります。それ自体は正常です
  2. 一人ひとりのつまずきを、どう把握しますか。全員に同じ答えが返ってくる場合、母語や個人差に対応していない可能性があります
  3. 何をもって「できた」とするか、どう測りますか
  4. 記録は、どの形でこちらに渡りますか。委託が終わった後に続けられるかは、ここで決まります
  5. 誰が教えますか。資格や登録の有無と、その人が交替する場合の引き継ぎも確かめます

一つめの答えが「こちらで全部やります」だった場合は、むしろ注意してください。外から自社の現場の言葉を全部拾えるとしたら、それは一般的な言葉に置き換えているということです。

選べる先が、多くない可能性があります

現実的な制約も一つ書いておきます。

文部科学省の認定結果の概要によれば、認定日本語教育機関のうち就労のための課程の認定を受けた機関は、公表されている回の合計で三機関です。同じ期間に認定された機関の総数と比べると、かなり小さい数です。

この数字は原本を取得できていない範囲なので、断定は避けます。ただ、「探せばいくらでもある」という前提で計画を立てないほうがよいとは言えます。とくに地方では、通える範囲に選択肢が無いことがあります。

なお、就労のための課程を置く機関には、外国人を雇用する事業主等と連携して教育課程を編成するなどの実績に基づいて連携体制をつくることが求められている旨の記述もあります。裏返せば、連携する企業の側にも仕事があるということで、丸ごと預ける形は制度の想定ともずれている可能性があります。

自社の受け入れ方について具体的に確認する場合は、機関側と所管に直接あたってください。

費用は、同じ表に並べて比べる

比べ方については、外注の見積もりと社内の時間を同じ表に並べることを勧めます。

外注には請求書が来ますが、社内で時間を割く形には来ません。この非対称が判断を歪めます。社内で割く時間に人件費を掛けてから並べると、順位が入れ替わることがあります。なぜそうなるのか、時間の確保そのものをどう設計するかは、こちらに書きました。

→ 日本語教育にかかる時間を、シフトの中でどう確保するか

現実的なのは、混ぜる形です

ここまでを踏まえると、多くの会社にとって現実的なのは次の形です。

  • 一(何を教えるか)と五(続ける)は、社内に置く
  • 二(教材と手順)は、社内が持ち込んだ材料をもとに、外部と一緒に作る
  • 三(教える)は、専門性が要る部分を外に出し、業務の言葉は社内で通す
  • 四(測る)は、軸を社内で決め、測り方の設計を外部に相談する

全部を外に出す形も、全部を社内で抱える形も、この五つを一つの塊として扱っている点では同じです。分けてみると、判断はずっと簡単になります。

経営者が明日できること

  • 五つの仕事のうち、いま社内で誰が担当しているかを書き出してください。担当が空欄の行が、抜けている部分です
  • 一(何を教えるか)の担当が空欄なら、外注の検討より先にそこを埋めます
  • 社内で教えている時間に人件費を掛けて、見積もりと同じ表に並べます
  • すでに外注しているなら、記録がどの形で自社に残っているかを確認します
  • 通える範囲にどんな選択肢があるかを、早めに調べておきます

「内製か外注か」という問いのままでは、答えが出ません。五つに分けてから、行ごとに決めてください。


この記事で引いた資料

  • 育成就労法施行規則 附則第3条(登録日本語教員が実施する授業の当分の間の取扱い)
  • 文部科学省「認定日本語教育機関 認定結果概要」(課程分野別の認定機関数)
  • 文部科学省「就労のための課程・生活のための課程を置く認定日本語教育機関の認定等について」(企業等との連携体制)

後の二つは原本を取得できていないため、本文では断定を避けています。制度は改正され、認定の状況も回を追うごとに変わります。この記事の内容は時点注記の日付時点のもので、実際の判断にあたっては最新の公表資料をご確認ください。


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本記事は2026年9月時点の法令・行政資料に基づきます。

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