日本語教育支援は義務か努力義務か|2つの制度が別々に存在する
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「外国人社員への日本語教育は、義務なんですか」
この質問には、そのままでは答えられません。義務と呼ばれているものが二つあるうえに、その二つは、根拠も、かかる相手も、守らなかったときに起きることも違うからです。
答えを一つに決めてしまうと、どちらかを取り違えます。取り違えの向きによって、計画が通らなくなるか、要らない投資をすることになるかのどちらかです。
性質の違う二つが、別々の根拠で並んでいます
まず全体像を表にまとめます。
| 一つめ | 二つめ | |
|---|---|---|
| 何か | 育成就労計画の認定基準 | 外国人雇用管理指針上の努力義務 |
| 根拠 | 育成就労法 第9条第1項第2号 + 同法施行規則 第13条第2項第7号ヘ |
厚生労働省告示(外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針)第四 五 2 |
| かかる相手 | 育成就労外国人 | 外国人労働者一般 |
| 水準 | 定めがある(後述) | 定めなし |
| 満たさないと | 育成就労計画が認定されない | 「努めること」と書かれている |
この二つは、片方がもう片方の言い換えになっているわけではありません。育成就労で人を受け入れる会社には両方が同時にかかり、育成就労以外の在留資格で雇っている会社には一つめはかかりません。以下、それぞれを原本の言葉で確認したうえで、自社がどちらに当たるかの見分け方を説明します。
一つめは、満たさなければ計画が認定されないもの
育成就労のほうから見ていきます。法律は、育成就労計画の認定基準について次のように定めています(育成就労法 第9条第1項第2号)。
従事させる業務、当該業務において要する技能、日本語の能力その他の育成就労の目標及び内容として定める事項が、育成就労の区分に応じて主務省令で定める基準に適合していること。
法律そのものは水準を書いておらず、「主務省令で定める基準に適合していること」として、中身を省令に預けています。
その省令が、育成就労法施行規則 第13条第2項第7号ヘです。長い条文ですが、数値を含む部分だけを抜き出すと、認定日本語教育機関に置かれた就労のための課程で履修する授業時間数が百時間以上であること、と定めています。ただし書きもあります。
ただし、試験その他の評価方法により本邦での生活に必要な日本語能力及び従事させる業務に必要な日本語能力を一定程度有していることが証明されている場合は、この限りでない。
制度の運用を説明する文書では、これがもっと平易な言い方になっています。
育成就労計画の認定の申請時点において、育成就労外国人が A1相当の日本語能力の試験に合格していることの証明ができない場合は、入国後講習の日本語科目において A1相当講習を 100 時間以上受講する必要があります。
ここから読み取れることは三つあります。
まず、これは努力目標ではなく、認定の基準です。満たさなければ計画が認定されません。
次に、道は二つあります。試験に合格していることを示すか、講習を受けるかのどちらか一方でよく、両方が求められるわけではありません。
さらに、当分の間の特例があります。規則の附則第3条により、登録日本語教員が実施する授業(同時に授業を行う生徒の数が二十人以下であることなど、一定の条件を満たすもの)で履修した場合も、当分の間は同じものとみなされます。認定日本語教育機関の課程に限られない期間がある、ということです。
「A1相当とは実際どのくらいか」は、この記事では扱いません。要件の水準そのものについては、別の記事にまとめています。
→ 育成就労の日本語要件A1・A2とは、実際どのくらいのレベルか
二つめは、「努めること」と書かれているもの
もう一つは、外国人労働者の雇用管理について厚生労働省が定めている指針です。育成就労に限らず、外国人労働者を雇う事業主一般に向けたもので、生活支援について次のように書かれています(第四 五 2)。
事業主は、外国人労働者の日本社会への対応の円滑化を図るため、外国人労働者に対して日本語教育及び日本の生活習慣、文化、風習、雇用慣行等について理解を深めるための支援を行うとともに、外国人労働者が地域社会における行事や活動に参加する機会を設けるように努めること。また、事業主は、日本語教育の推進に関する法律の基本理念にのっとり、国又は地方公共団体が実施する日本語教育の推進に関する施策に協力するとともに、その雇用する外国人労働者及びその家族に対する日本語学習の機会の提供その他の日本語学習に関する支援に努めること。
安全衛生についても、別の箇所に規定があります(第四 三 2)。
事業主は、外国人労働者が労働災害防止のための指示等を理解することができるようにするため、必要な日本語及び基本的な合図等を習得させるよう努めること。
いずれも文末は「努めること」で、時間数も、到達すべき水準も書かれていません。
「努力義務だから何もしなくてよい」ではありません
読み違えやすいところですが、努力義務は水準が書かれていないというだけで、やらなくてよいという意味ではありません。
とくに安全衛生のほうは、労働災害の防止に直結しています。指示が理解されないまま作業が進む状態を放置していて実際に事故が起きたとき、「指針は努力義務だったので」という説明が通るとは考えないほうがよいでしょう。制度上の強制力の話と、事故が起きたときに問われることとは、別の層の話です。
自社はどちらに当たるのか
判断は、次の順序で進めます。
最初に、育成就労で人を受け入れているかを確かめます。受け入れている(または受け入れる計画がある)なら、一つめがかかります。計画の認定に必要なものなので、受け入れの段取りそのものに組み込まれ、「やるかどうか」を検討する対象にはなりません。
次に、育成就労以外の在留資格で外国人を雇っているかを確かめます。雇っているなら、二つめがかかります。指針の対象は外国人労働者一般で、在留資格を限定していません。
最後に、両方に当てはまるかを確かめます。育成就労の社員と、それ以外の在留資格の社員が両方いる会社は珍しくありません。その場合は二つが同時にかかり、一つめは育成就労の社員について、二つめは全員についてかかります。
なお、この記事が扱うのはこの二つだけです。育成就労以外の在留資格に、別の日本語の要件が定められているかどうかは、ここでは扱いません。自社の在留資格について確認が必要なら、その制度の要領を直接あたってください。
取り違えると、何が起きるか
現場で見かける取り違えには、主に三つの向きがあります。
一つは、認定基準のほうを「努力目標」と読むことです。「日本語教育は努力義務だと聞いた」という理解のまま育成就労の受け入れを進めると、計画の認定の段階で止まります。準備に期間が必要なものなので、気づくのが遅いほど影響は大きくなります。
もう一つは、努力義務のほうを「やらなくてよい」と読むことです。水準が書かれていないことを、手を打たなくてよいと読み替えてしまうもので、安全に関わる場面ではこの読み方が最も危険です。
逆に、全員に百時間が要ると読むこともあります。認定基準がかかるのは育成就労の社員についてで、それ以外の在留資格の社員にも同じ時間数が必要だと考えると、要らない費用が乗ってしまいます。
三つとも、二つを一つの「義務」という言葉にまとめてしまったことから起きています。社内で話すときは、どちらの話かを毎回はっきりさせてください。
書き分けるための言い方
社内文書や稟議で使う言い方を先に決めておくと、事故が減ります。
- 一つめは「育成就労計画の認定基準」と呼ぶ。「義務」とは呼ばない
- 二つめは「雇用管理指針の努力義務」と呼ぶ。根拠の名前を必ず付ける
- 「日本語教育の義務」という言い方を、単独では使わない
呼び名を分けるだけで、会議の中で二つが混ざらなくなります。
制度を満たすことと、現場が回ることは別です
最後にもう一点付け加えると、どちらの制度も、現場が回ることを保証してはくれません。
一つめは時間数を定めていますが、その時間で何を教えるかまでは会社が決めます。二つめには水準の定めがありません。制度を満たしてもなお、自社の現場で必要な日本語は自分で決めるしかないという構造になっています。何を決めるべきかは、次の記事に整理しました。
→ 外国人社員の日本語は、研修では解決しません|職場の側で決める五つのこと
経営者が明日できること
- 自社の外国人社員を、在留資格ごとに分けて数える。一つめがかかる人と、二つめだけがかかる人が分かれます
- 育成就労の受け入れがあるなら、試験合格で示すのか講習で満たすのか、どちらの道を取るかを先に決める。段取りと費用が変わります
- 社内の文書で「日本語教育の義務」という言い方を使っている箇所を探し、どちらのことか書き足す
- 安全に関わる指示が、実際に理解されているかを確かめる。努力義務の側でも、ここは結果が問われます
「義務ですか」という問いに一言で答えようとすると、必ずどちらかを落とします。二つあることを前提に置くだけで、判断の精度は上がります。
この記事で引いた原本
- 育成就労法 第9条第1項第2号
- 育成就労法施行規則 第13条第2項第7号ヘ、同 附則第3条
- 育成就労制度運用要領
- 外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針(厚生労働省告示)第四 五 2、第四 三 2
いずれも法令・告示の原本および制度の運用要領から引用しています。制度は改正されます。この記事の内容は上記の時点注記の日付時点のものです。実際の手続きにあたっては、最新の条文と要領をご確認ください。
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