日本語教育

外国人社員の日本語を、何で評価すればよいのか|4つの軸

TalkJPN for Business

半年たった外国人社員について、現場の責任者に様子を聞く。返ってくる答えは、だいたいこうです。

「日本語、だいぶ上手になりましたよ」

悪い報告ではありません。ただ、この一言からは**次に何を教えればよいかが出てきません。**上手になった、の中身が分からないからです。

結論:一つの点数にまとめないこと

先に結論です。日本語の力を一つの評価にまとめた瞬間、打ち手が消えます。

「五段階で三」と言われても、何を伸ばせばよいか分かりません。聞き取りが弱いのか、自分から言えないのか、分からないときに止まれないのか。どれも「三」になりえます。そして、それぞれ必要な手当てがまったく違います。

分けて測れば、次にやることが自動的に決まります。この記事では四つの軸を提案します。

なぜ総合評価では足りないのか

現場の評価が総合になりやすいのは、日本語の力が日々の印象として入ってくるからです。挨拶がはきはきしている、笑顔がいい、指示に「はい」と答える。こうした印象が積み重なって「上手になった」という感覚になります。

しかし印象は、目立つ能力に引きずられます。

いちばん目立つのは発音です。発音が良い人は、実際の理解度より高く評価されます。逆に発音に癖のある人は、内容を正確に理解していても低く見られます。これは聞く側の問題であって、本人の能力とは別のことです。

もう一つ引きずられるのが積極性です。よく話す人は「日本語ができる」と見られます。しかし話す量と、正確に伝わっているかは別です。

分けて測ることの効用は、この二つのバイアスから評価を切り離せることにあります。

軸の一:理解 — 指示を受け取れるか

一つめは、こちらが伝えたことが届いているかです。

測り方は、言葉ではなく動作で見ます。 「分かりましたか」と聞いてはいけません。分かっていない人ほど「はい」と答えます。これは不誠実だからではなく、分からないと言うことの負担が大きいからです。

そうではなく、やってもらう。二つか三つの手順がある指示を出して、その通りに動けるかを見ます。

ここで見えるのは、語彙ではなく指示を保持する力です。現場で困るのは「言葉を知らない」ことより、「三つ言われたうちの二つ目が抜ける」ことのほうが多い。これは語彙を増やしても直りません。指示の出し方を変えるか、復唱を挟むかで対処します。

弱いときの打ち手:指示を短く切る。一度に渡す数を減らす。復唱を習慣にする。

軸の二:産出 — 自分から言えるか

二つめは、自分の側から言葉を出せるかです。

理解と産出は、まったく別の力です。聞けば分かるのに、自分では言えない。この状態はごく普通に起きます。理解は相手の言葉に反応すればよいのに対し、産出は自分で言葉を選ばなければならないからです。

測り方は、説明させることです。 「いま何をしているところですか」「この作業の次は何をしますか」。答えの分かっている質問を、あえてしてみます。見るのは正しさではなく、言葉が出てくるまでの時間と、詰まったときにどうするかです。

現場の会話は、だいたい受け身で成立します。指示を受け、返事をし、動く。それだけなら産出はほとんど要りません。だから**産出の弱さは、意識して見にいかないと見えません。**気づくのは、お客様から質問されて固まったときです。

弱いときの打ち手:場面を決めて、言い方の型を渡す。自由に話させる練習より、決まった場面の決まった言い方を先に固めるほうが早く効きます。

軸の三:確認 — 分からないときに止まれるか

三つめは、分からないときに手を止めて聞きに行けるかです。

これは語学の力というより、行動の習慣です。そして安全に直結します。

測り方は、頻度です。 その人が一か月に何回「確認してまいります」と言ったか。回数が少ないことは、上達の証拠ではありません。推測で答えている可能性のほうが高い。

この軸だけは、他の三つと性質が違います。段階で測るものではなく、やるかやらないかです。その理由と、現場でどう教えるかは別の記事に書きました。

→ 「多分大丈夫です」が現場でいちばん危ない言葉である理由

弱いときの打ち手:本人ではなく職場を直します。聞きに行ける相手が決まっているか、聞きに行って嫌な顔をされていないか。ここが崩れていると、どれだけ本人に言っても変わりません。

軸の四:記録 — 書いて残せるか

四つめは、書く力です。見落とされがちですが、業務では重い。

申し送り、日報、点検表、クレームの記録。口頭で伝わったことが、書面で残らないという状態は、現場でよく起きます。話せる人が書けるとは限りません。

測り方は、成果物そのものです。 その人が書いた申し送りを、別の人が読んで意図どおりに動けるか。読み手にとって使えたかどうかが基準です。

日本語の学習では、書くことは後回しになりがちです。会話ができれば仕事は回るように見えるからです。しかし記録が残らないと、引き継ぎで情報が落ち、同じ確認が繰り返されます。

弱いときの打ち手:自由記述をやめて、書く欄を決めます。「誰が」「何を」「どうした」の三つだけ埋める形にすると、書ける人が一気に増えます。

四つに分けると、打ち手が決まります

四つの軸で見ると、同じ「三」でも中身が違うことが見えてきます。

弱い軸 現場で起きること 打ち手の向き
理解 指示の一部が抜ける 指示の出し方を変える
産出 質問されると固まる 場面ごとの言い方を渡す
確認 推測で答える 職場の仕組みを直す
記録 引き継ぎで情報が落ちる 書く欄を決める

注目していただきたいのは、打ち手の向きが違うことです。理解と産出は本人への教育、確認は職場の設計、記録は様式の設計。総合評価のままだと、この三種類が「日本語研修を受けさせる」に一本化されてしまいます。

そして多くの場合、いちばん効くのは本人への教育ではない側です。

評価表をどう作るか

実務としての作り方です。

四つの軸を、別々の行にします。 一つの行にまとめない。合計点を出さない。合計した瞬間、四つの情報が一つに潰れます。

軸ごとに測り方を書いておきます。 「理解=三手順の指示を通せるか」「産出=作業内容を説明できるか」「確認=月に何回聞きに来たか」「記録=申し送りが第三者に伝わるか」。書いておかないと、評価する人によって基準がぶれます。

評価する人を分けません。 同じ人が四つとも見ます。軸ごとに担当を分けると、印象の共有が起きて結局は総合評価に戻ります。

確認の軸だけは、○×で付けます。 段階をつけると、途中の段階の人が現場に立ってしまうためです。

なお、採用の段階で何を見るか——つまり入社前の見極め——は、これとは別の話です。そちらは以前に書きました。

→ JLPTの級で日本語能力を判断してはいけない理由

経営者が明日できること

  • **いまの評価表を見て、日本語に関する行が何行あるか数える。**一行なら、四行に分ける
  • **四つの軸それぞれに、測り方を一文で書く。**書けない軸は、まだ測っていない軸です
  • 現場の責任者に、四つの軸で言い直してもらう。「上手になった」ではなく、どの軸がどう変わったかを聞く
  • **合計点を出す欄があれば、消す。**四つを別々に見ることが目的なので、合計する意味がありません

「日本語ができる」という言い方をやめるだけで、現場の見え方が変わります。できる/できないの一本の線で見ているうちは、次の一手が出てきません。四つに分けた瞬間、打ち手は具体的になります。

そして分けてみると、多くの職場で弱いのは産出と記録です。どちらも、放っておいて伸びる力ではありません。


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本記事は2026年9月時点の法令・行政資料に基づきます。

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