日本人社員の側が変わらないと、定着しません
TalkJPN for Business
「受け入れたのに、続かない」
二人目、三人目と入れても、同じところで同じように離れていく。そうなると、会社の側では「日本語ができる人が来れば続くのだろう」という説明がつくられます。
しかし、同じ職場で続かないことが繰り返されているのであれば、共通しているのは職場のほうです。入ってくる人は毎回違い、迎える側は毎回同じだからです。
変えるのは態度ではなく、手順です
「もっと優しく接しましょう」では、何も変わりません。気持ちの問題にしてしまうと、忙しいときに真っ先に消えるからです。
変えるべきものは四つあり、いずれも手順として書けるものです。
- 話し方。速さと省略を、測って直します
- 情報の届き方。日本語のネイティブを前提にした経路を、作り直します
- 仕事の任せ方。渡す範囲を、期限を切って広げます
- 評価の癖。発音の印象で能力を判断していないかを、点検します
話し方を、測って直します
現場の日本人スタッフは、自分がどれくらい速く話しているかを知りません。自分の話し方は、自分にはちょうどよく聞こえるからです。
やることは単純で、朝礼か申し送りを一度録音して、全員で聞いてください。聞くときは、次の三点を見ます。
- 速さ。文の終わりまで一息で走っていないか
- 省略。主語が抜けていないか、「例のやつ」「いつもの」が出ていないか
- 語尾。「〜だから」「〜なんで」で文が終わっていないか
とくに効くのは三つめです。日本語を学んだ人が習うのは、文末まで言い切る形です。言い切らない話し方は、教わっていない形で届くことになります。
もう一つ見ておきたいのが、聞き返されたときの反応です。面倒そうな顔を一度されると、本人は次から聞かなくなります。聞き返し方そのものについては、母語別の記事で詳しく書きました。
→ ミャンマー語話者がつまずく日本語|文法は速いのに発音で苦しむ理由
手順として書くなら、「ゆっくり話しましょう」ではなく、「申し送りは、一文ごとに区切って、文末まで言い切る」のようにします。行動として書けば、できたかどうかが分かります。
情報の届き方を、作り直します
続かない会社には、たいてい日本語のネイティブだけが通る情報経路があります。
- 休憩中の雑談で決まったことが、そのまま運用になる
- 掲示は貼ってあるが、読める前提で置かれている
- 連絡は口頭で、聞き取れたかどうかは確認されない
- シフトの変更が、電話で口頭だけ
どれも悪意があるわけではなく、これまでそれで回っていたから続いているだけです。しかし外国人社員から見ると、「自分だけが知らされていない」という経験が積み上がっていきます。
この積み重ねは、日本語力とは別のところで効いてきます。知らされていないと感じている人は、その組織に長くいようとしません。
作り直す手順
まず、口頭で決まったことを書く場所を一つに決めます。場所が複数あると、結局どこも見られなくなります。
次に、書いたものを行動が起きる場所に置きます。事務所のファイルではなく、厨房のことは厨房に置いてください。
そのうえで、届いたかどうかを、読み上げではなく動作で確かめます。「読みましたか」ではなく、「明日のシフト、何時からですか」と聞くようにします。
重要な連絡は、口頭と掲示、掲示とチャットのように、二つの経路で出してください。片方が抜けても届きます。
仕事の任せ方を、期限を切って広げます
辞める理由として見落とされやすいのが、この点です。
日本語が不安だからという理由で、任せる仕事を絞る。絞ったまま半年、一年が過ぎる。本人から見ると、成長していない期間が続くことになります。
これは悪気なく起きます。忙しい現場では、確実にできることをやってもらうのが合理的だからです。しかしその合理は、本人の側から見ると「この会社にいても変わらない」という結論につながります。
広げる手順
- いま任せている仕事を書き出し、入社時から増えているかを見ます
- 次に渡す仕事を一つ決め、いつ渡すかを日付で決めます。「できるようになったら」は日付ではありません
- 渡すときは、いつ始まるか、何を言うか、相手からどう返ってくるか、どう終わるかの四つを揃えます。言葉だけ渡しても動けません
→ 場面別に教える|語彙リストを渡しても話せるようにならない
- 渡した記録を残します。残っていないと、本人にも会社にも伸びが見えません
評価の癖を、点検します
最後は、見る側の癖です。
発音が聞き取りにくい人は、内容の理解まで低く見られます。逆に、発音がなめらかで積極的に話す人は、実際より高く見られます。どちらも聞く側で起きていることで、本人の能力とは別のことです。
この癖を放置すると、能力のある人が評価されずに離れ、能力の測れていない人が危ない場面に立つ、という二つのことが起きます。
対処は、印象で測るのをやめることです。力を分けて測る方法は、レーンの違う記事に書きました。
ここで強調したいのは、評価表を直すのは経営者の仕事だという一点です。現場の責任者は評価表を使う側であって、作り変える側ではありません。
「慣れるまで」を、期限にしないでください
四つとは別に、言葉づかいの問題を一つ挙げておきます。
「慣れるまで様子を見よう」はよく使われる言い方ですが、慣れるまでには終わりがありません。いつ終わるかを誰も決めていないので、何も始まらないのです。
期限を切ってください。「三か月後に、任せる範囲を見直す」のように日付があれば、その日までに何をするかが決まります。
変わらない側にも、理由があります
最後に、現場の側の事情にも触れておきます。
日本人スタッフが変わらないのは、意地が悪いからではありません。変わるための時間と、変わってよいという許可がないからです。
ゆっくり話せば、その分だけ時間がかかります。二つの経路で連絡を出せば手間が増え、新しい仕事を渡せば最初はこちらの負担になります。いずれも、忙しい現場にとってはコストです。
だからこそ、経営者が「そのコストは会社が引き受ける」と言う必要があります。言わなければ、現場は善意で速さを選びます。速さを選んだ結果が、続かない職場です。
この構造は、日本語教育の設計全体にも共通しています。
→ 外国人社員の日本語は、研修では解決しません|職場の側で決める五つのこと
経営者が明日できること
- 朝礼か申し送りを一度録音し、日本人スタッフ全員で聞いてください。速さ・省略・語尾の三つを見ます
- 口頭で決まったことを書く場所を、一つに決めてください
- 外国人社員それぞれについて、入社時から任せる仕事が増えたかを確認してください
- 次に渡す仕事と、渡す日付を決めてください。「できるようになったら」はやめます
- 「慣れるまで」と言っている案件に、期限を入れてください
- 手間が増えることを会社が引き受けると、現場に向けて言葉にしてください
続かない理由を本人の日本語力に求めると、打てる手が本人の中にしかなくなります。迎える側を見れば、手順として書けるものが四つ出てきます。どれも、明日から動かせるものです。
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