場面別に教える|語彙リストを渡しても話せるようにならない
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業務で使う言葉を洗い出して一覧にし、ふりがなも振って本人に渡した。それでも、現場では言葉が出てこないことがあります。
一覧を見せながら聞けば、意味は答えられるので、知らないわけではありません。それなのに、実際の場面になると出てこないのです。
覚える単位が、取り出す単位と違っています
原因は、覚えた量ではなく単位にあります。
一覧は、語を単位に並べています。ところが、現場で言葉を取り出すときの単位は語ではなく、「いつ、誰に、何のために言うか」という場面です。人が言葉を思い出す手がかりは、五十音順でも業務分類でもなく、その場面で前に起きたことです。手がかりの形が違うため、語の順で覚えたものは、場面が来ても引き出されません。
そこで、渡す単位を変え、語ではなく場面ごとに渡します。
なお、一覧そのものが無駄だというわけではありません。どの語を選ぶかを決める段階では、一覧が要ります。選び方はこちらに書きました。
→ 現場で必要な漢字の選び方|教材の順番ではなく、現場の紙から決める
一覧は選定の結果であって、そのままでは渡す形になっていません。この記事で扱うのは、そこから先の話です。
場面をどう切り出すか
最も難しいのがここです。「場面ごとに教える」と決めても、場面の単位が決まらなければ作業が始まりません。単位を決める条件は、次の三つです。
始まりと終わりがあること
場面には、始まる合図と、終わったと分かる状態が要ります。
たとえば「接客」は、大きすぎて始まりも終わりもないので、場面にはなりません。「お客様に呼ばれてから、注文を復唱して離れるまで」であれば場面になります。終わりが決まっていないと練習が途中で止まり、本人も自分ができたのかどうかが分かりません。
一人で完結すること
場面は、本人が最後まで責任を持てる範囲で切ります。
途中で必ず誰かに引き継ぐなら、そこが境目です。引き継ぐところまでを一つの場面にして、引き継いだ先は別の場面にします。まとめてしまうと、本人の担当外まで練習することになり、時間が無駄になります。
やり方が違えば結果が変わること
結果が変わらない場面は、切り出す必要がありません。
「言い方を間違えても誰も困らない」場面に時間を割くと、本当に必要な場面に回す時間が減ってしまいます。切り出す候補が多すぎるときは、この条件で落としてください。
大きすぎる場面、小さすぎる場面
実際に作ってみると、たいてい極端に振れます。
大きすぎる例は「電話対応」です。中に取り次ぎ、伝言、断り、折り返しの約束が全部入っているため、どこから練習するかを決められません。
反対に、「『少々お待ちください』と言う」は小さすぎる例です。これは場面ではなく場面の中の一動作で、単体で練習しても、いつ使うかが身につきません。
目安は、一つの場面を通しで演じたときに、一分から数分で終わるくらいの大きさです。
一日を場面に割る
切り出しの作業は、机の上ではできません。その持ち場の人に、一日を場面で割ってもらいます。進め方は次のとおりです。
- 出勤から退勤まで、やることを時間順に書き出す
- 書き出したものを、上の三つの条件で場面にまとめる
- 場面ごとに、言葉のやり取りがあるかどうかを印で分ける
- やり取りがある場面だけを残す
特に効果があるのは四つめです。一日の業務のうち、言葉のやり取りが要る場面は思ったより少なく、残った場面が教えるべき対象になります。
この作業を教える側がやると、想像で埋まってしまいます。実際に手を動かしている人に書いてもらってください。
場面ごとに渡す、四点
場面が決まったら、その場面について四つのものを渡します。一つでも欠けると、現場で止まります。
一つめは、きっかけです。その場面がいつ始まるか、たとえば「お客様に呼ばれたら」「表示が赤に変わったら」「引き継ぎの時間になったら」といったものです。きっかけが無いと、言葉を覚えても使う場面で出てきません。
二つめは、言う言葉です。ここでは、固定するものと幅を持たせるものを分けます。判断させてはいけない場面の言葉は一つに固定し、相手や状況で調整すべき場面には複数の言い方を渡します。この線引きと、幅の作り方はこちらで説明しています。
→ 敬語は4段階でスライドさせて教える|終了・理解・待機・謝罪
三つめは、相手の返しです。自分が言った後、相手から返ってくる可能性のある言葉のことで、ここを渡していない場面は、本番で必ず崩れます。一覧型の教材が最も弱いのがこの部分で、自分が言う側の言葉しか載っていません。
四つめは、終わり方です。その場面をどう閉じるか、次にどの動作へ移るかが決まっていれば、途中で迷っても戻れます。
練習のさせ方
四点を渡したら、通しで動かします。
まず、途中で切らずに通します。途中で止めて直すと、場面が場面でなくなってしまうので、直すのは一度最後まで通してからにします。
次に、相手役を替えます。同じ人とだけ練習すると、その人の言い方に合わせてしまいます。声の高さ、速さ、言い回しが違う人を相手にすると、本番に近づきます。
さらに、崩れる条件をあとから足します。最初は静かな場所でゆっくり行い、できるようになったら、音のある場所で、速く、途中で別の用事が割り込む形にします。現場で崩れるのは、この三つが同時に来たときだからです。
なお、通しで動かす場面の練習は、短い時間に分けてはいけない種類のもので、まとまった時間を先に押さえる必要があります。時間の確保の仕方は別に書きました。
場面を増やす順番
全部を一度に渡すと、どれも身につかないため、順番をつけます。並べる軸は、どれだけ頻繁に起きるかと、間違えたときの結果がどれだけ重いかの二つです。
最優先は、頻度が高く結果が重いものです。次が、頻度は低くても結果が重いもので、こちらは回数をこなすだけでは身につかないので、意識して練習に入れます。
最初に渡す場面は、三つまでにしてください。三つが体に入ってから次を足すほうが、一度に十渡すよりも、結果的に早く終わります。
一覧は、別の役に立ちます
ここまで一覧の弱点を書いてきましたが、捨てる必要はありません。役割が違うだけで、一覧が効くのは次の三つの場面です。
- 抜けの点検。場面をいくつか作った後、一覧と突き合わせると、まだ拾えていない言葉が見つかります
- 棚卸し。業務が変わったとき、どの場面を直すべきかを一覧から逆引きできます
- 引き継ぎ。教える人が替わるとき、一覧があると全体像が早く伝わります
いずれも、教える側が使う道具です。学ぶ側に渡す形ではない、というだけのことです。
経営者が明日できること
- いま渡している教材が、語の一覧になっていないかを見る。なっていれば、それは教える側の道具です
- 持ち場を一つ選び、一日を場面で割る作業を、その持ち場の人に頼む
- 言葉のやり取りがある場面だけを残してもらい、何個残ったかを見る。十を超えたら、切り方が小さすぎます
- 残った場面のうち、頻度が高く結果が重いものを三つ選び、そこから始める
- 「相手の返し」が教材に入っているかを確かめる。入っていなければ、本番で崩れるのはそこです
一覧を作る作業そのものは、無駄ではありませんでした。足りなかったのは、一覧から場面に組み直す一手間です。
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