敬語は4段階でスライドさせて教える|終了・理解・待機・謝罪
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敬語の研修を受けさせたのに、現場ではまったく使えていない。この相談は、本当によくいただきます。
原因はたいてい、教える順番にあります。尊敬語と謙譲語の区別から入ると、現場では使えません。区別は正しいのですが、とっさに間に合わないのです。
結論:文法ではなく、四つの場面で覚えます
現場で敬語が必要になる場面は、思っているより少ない。ほとんどは、次の四つに収まります。
- 終了 ——「終わりました」と伝える
- 理解 ——「分かりました」と伝える
- 待機 ——「お待ちください」と伝える
- 謝罪 ——「申し訳ありません」と伝える
一日の仕事の大半は、決まった手順を決まった順にこなすことです。敬語が要るのは、その手順の切れ目で、相手に自分の状態を伝える瞬間に集中しています。
この四つに絞って、それぞれに言い方の幅を用意する。これが、現場で使える敬語の教え方です。
なぜ文法から教えると使えないのか
尊敬語と謙譲語の使い分けは、頭では理解できます。実際、研修の場では正しく答えられる人がほとんどです。
しかし現場では、相手が目の前にいて、反応を待っています。その一瞬で「この動作の主語は相手だから尊敬語、自分だから謙譲語」と変換する余裕はありません。
結果、二つのうちどちらかが起きます。黙ってしまうか、崩れた言い方になるか。どちらも、研修の内容を覚えていないせいではありません。変換の作業を、話す速度に間に合わせられないだけです。
場面から入れば、変換が要りません。「終わったときはこう言う」と、場面と言葉が直接つながるからです。
四つの場面に、それぞれ幅を用意する
各場面について、軽いほうから重いほうまで、三つほどの言い方を持たせます。
終了 「終わりました」/「終わりました。ご確認をお願いします」/「完了いたしました。ご確認いただけますでしょうか」
理解 「はい、分かりました」/「承知しました」/「かしこまりました」
待機 「少々お待ちください」/「少々お待ちいただけますか」/「お待たせしております。もう少しお時間をいただけますでしょうか」
謝罪 「すみません」/「申し訳ありません」/「申し訳ございません」
一つの場面につき三つ。四つの場面で十二の言い方です。これなら覚えられます。そして、この十二で現場の大半は回ります。
スライドの基準は、相手が誰かではありません
ここが、この教え方の肝心なところです。
多くの敬語研修は、相手が誰かで言い方を選ばせます。お客様には丁寧に、社内には普通に、という具合です。これは分かりやすいのですが、現場では迷いを生みます。常連のお客様は。取引先の方は。上司の同行者は。判断が要る場面が次々に出てきます。
そうではなく、相手にどれだけ負担をかけたかで選んでください。
待たせていないなら軽い言い方。待たせたなら重い言い方。相手の手間が増えたなら重く、こちらの都合で動いてもらったならもっと重く。
この基準なら、相手が誰かを考えなくて済みます。目の前で起きたことだけを見ればいい。**そして、この基準で選んだ言い方は、まず失礼になりません。**負担に見合った丁寧さは、相手の立場にかかわらず適切だからです。
覚える順番は、真ん中からです
三つを同時に教えないでください。真ん中から覚えます。
理由は単純です。真ん中は失敗しないからです。
いちばん重い言い方は、軽い場面で使うと大げさになり、かえって距離ができます。いちばん軽い言い方は、重い場面で使うと足りません。真ん中は、どちらの場面でも大きくは外しません。
まず真ん中の四つ——「終わりました。ご確認をお願いします」「承知しました」「少々お待ちいただけますか」「申し訳ありません」——を、迷わず出せるようにします。ここまでで、接客の土台はできています。
次に重いほうを足します。待たせたとき、こちらの不手際があったときに使う言い方です。軽いほうは最後で構いません。職場に慣れるにつれ、自然に出るようになります。
「言葉を一つに固定する」ほうがいい場面もあります
ここで、矛盾するように見えることを書きます。
以前、安全に関わる確認については言葉を一つに固定すべきだと書きました。選択肢が多いほど、とっさには出てこないからです。
接客の敬語では、逆に幅を持たせます。使い分けているからです。
矛盾ではありません。**判断してはいけない場面は固定し、調整すべき場面は幅を持たせる。**この線引きが要るだけです。
安全の確認は、状況によって言い方を変える必要がありません。むしろ変えてはいけない。一方、接客の敬語は、相手にかけた負担に応じて変えなければ、機械的に聞こえます。
教えるときは、この二つを混ぜないでください。同じ日本語の学習に見えますが、目的が正反対です。
幅がないと、態度の問題として受け取られます
なぜ幅が要るのか。一つしか言い方を持たない人に何が起きるかを見ると、はっきりします。
軽い言い方しか持たない人は、待たせた場面でも「少々お待ちください」で通します。言葉としては間違っていません。しかしお客様には、待たされたことが軽く扱われたように届きます。
重い言い方しか持たない人は、何でもないやり取りでも深く詫びます。これも間違いではありませんが、続くと過剰に映り、こちらが気を遣う側に回ってしまいます。
どちらの場合も、お客様が受け取るのは日本語の問題ではなく、態度の問題です。「そっけない」「わざとらしい」という感想になって返ってきます。
ここが、経営者にとって見えにくいところだと思います。現場から上がってくるのは「接客態度に課題がある」という報告で、「言い方の幅を渡していない」という形では上がってきません。**態度の指導をいくら重ねても、幅がなければ変わりません。**持っていない言葉は、意識しても出ないからです。
接客の評判が伸びないとき、まず確認していただきたいのは、その人が場面ごとにいくつの言い方を持っているかです。
よくある失敗
「させていただきます」を付けすぎる。 丁寧にしようとして、あらゆる動作に付けてしまいます。重いほうの言い方を先に教えると、この癖がつきやすい。真ん中から教える理由の一つです。
「すみません」で全部済ませる。 この言葉は、謝罪にも、呼びかけにも、感謝にも使えます。便利すぎて、四つの場面の区別が消えます。呼びかけには「失礼します」、感謝には「ありがとうございます」を、早い段階で分けて渡してください。
経営者が明日できること
- 自社の現場で実際に交わされている言葉を、一日分書き出す。四つの場面に収まるかを見る
- 収まらないものがあれば、それが自社に固有の場面です。五つめとして足す
- 真ん中の四つを紙に書いて、休憩室に貼る。重いほうと軽いほうは、まだ貼らない
- 日本人スタッフにも同じ四つを見せる。職場で言い方が揃うと、覚えるほうは格段に楽になります
敬語ができないことを、その人の日本語力の問題として扱わないでください。十二の言い方を渡していないだけであることが、ほとんどです。渡してから、二週間ほど様子を見てみてください。
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