日本語教育

ミャンマー語話者がつまずく日本語|文法は速いのに発音で苦しむ理由

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「文法の説明は一回で分かるのに、話すと通じにくい」

ミャンマー語を母語とする社員について、こうした声を聞くことがあります。理解と発音のあいだに、はっきりとした差があるという指摘です。

これは、本人の努力が偏っているからではなく、ミャンマー語と日本語の関係からそのまま説明がつきます。文法では母語が味方になり、発音では母語が壁になるのです。

文法の速さと発音の遅さは、同じ原因の表と裏です

ミャンマー語は、文の組み立て方では日本語とよく似ていて、音の組み立て方では日本語と大きく違う言語です。似ているところは速く進み、違うところで長くつまずくという差は、どちらも母語の影響から生じています。

そのため、文法が速いことを根拠に「発音もそのうち追いつくだろう」と考えるのは危険です。二つは別の道筋で伸びるので、それぞれに別の練習が要ります。

文法が速いのは、骨組みが似ているからです

まず、速いほうから見ていきます。

動詞が最後に来る

ミャンマー語は、日本語と同じく動詞が文の最後に来る言語です。「私は/お部屋に/お荷物を/運びます」という並びが、そのまま通じます。英語のように、「運びます」を文の前のほうに出す必要がありません。

語順が違う言語から来た人は、話すたびに頭の中で並べ替えをしています。その負担がないだけで、文を組み立てる速さは大きく変わります。

名詞の後ろに印をつける

ミャンマー語も、名詞の後ろに小さな言葉をつけて、「誰が」「どこへ」「何を」を示します。日本語の助詞と同じ発想です。

後ろにつなげて、意味を足していく

動詞の後ろに要素を次々とつなげて、時や丁寧さや気持ちを足していく性質も共通しています。「行きます」「行きません」「行きたいです」のように後ろに足していく日本語の作りは、この性質を持つ人にとって理解しやすいものです。言語学では、こうした性質を膠着性(こうちゃくせい)と呼びます。

日本語の文法を学ぶとき、骨組みそのものは母語で既に知っている状態から始められるわけです。新しく覚えるのは、骨組みにのせる部品のほうになります。

ただし、部品の使い分けまで似ているわけではありません。「は」と「が」、「に」と「で」の区別は、ミャンマー語の後ろにつける言葉と一対一には対応しません。骨組みが速く入るぶん、こうした細かい使い分けの誤りは残りやすくなります。速いのは全体の理解であって細部ではない、という点は覚えておいてください。

発音が遅いのは、音節の終わり方が違うからです

次に、遅いほうを見ます。

鍵になるのは、音のまとまり(音節)の最後に、どんな子音が来られるかです。音節の最後に来る子音を、末子音(まつしいん)と呼びます。

ミャンマー語で音節の最後に置ける子音は、鼻にかかる音と、のどを一瞬閉じる音の二つだけです。のどを閉じる音は声門閉鎖音と呼ばれ、息をぐっと止めるような音です。

日本語は、一見すると末子音の少ない言語に見えます。しかし実際には、「ん」と小さい「っ」が音節の終わりのような位置に来て、それぞれが一拍の長さを持っています。ここで、ミャンマー語の仕組みとのずれが生まれます。

「ん」が弱くなり、消える

日本語の「ん」は、次に来る音によって口の形が変わります。「さんぽ」では唇を閉じ、「かんじ」では舌先を歯ぐきにつけ、「りんご」では舌の奥を上げます。書けば同じ「ん」でも、実際にはいくつもの違う音です。

ミャンマー語では、音節の終わりの鼻音は一種類にまとまっているため、この口の形の違いは捉えにくくなります。ただ、口の形の違いは日本語でも意味を変えないので、ここは訛りとして聞こえる程度で済みます。

より深刻なのは、「ん」そのものが弱くなって、前の母音に溶けてしまうことです。「延長(えんちょう)」が「えちょう」に近く聞こえるのは、「ん」が一拍分の長さを持つという感覚がつかみにくいために起きます。「ん」の脱落は意味を変えるので、優先して直すべきところです。

小さい「っ」は、助けにもなり、邪魔にもなる

小さい「っ」については、事情が少し複雑です。

ミャンマー語の、のどを一瞬閉じる音は、日本語の「っ」で息を止める感覚に近いところがあります。そのため、「っ」の出し方そのものはつかみやすく、母語が助けになる数少ない場面といえます。

一方で、止める音を使い慣れているために、「っ」がないはずの場所にも止めが入ることがあります。「あさ」が「あっさ」のように聞こえるのがその例で、似た音があることが、そのまま使いすぎにもつながります。

長さが、声の高さと結びついている

ミャンマー語は、声の高さや声の質の違いで言葉を区別する言語です。これを声調(せいちょう)といい、音の長さもこの声調と一体になっています。

日本語の「のばす/のばさない」は、声の高さとは関係なく、長さだけで区別します。長さを声調の一部として聞いてきた耳には、この区別が独立したものとして届きにくく、「ビール」と「ビル」のずれはここから生まれます。

息の強さで分ける音がある

ミャンマー語には、同じ口の形でも息を強く出すか出さないかで別の音になる組もあります。日本語では、この違いで意味は変わりません。

この区別を持つ耳で日本語を聞くと、日本語のタ行やサ行の子音が、母語のどの音に当たるのかが定まりにくくなります。「ツ」が「チュ」に、「ス」が「シュ」に近くなる、といったずれは、こうした音の対応の不安定さとして現れます。

理解と発話の差が、職場で誤解を生みます

こうして、ミャンマー語を母語とする人には、分かっているのに、うまく言えないという状態が生まれやすくなります。この差は、職場で二つの誤解につながります。

一つめの誤解は、発音から理解力を低く見積もることです。言葉が聞き取りにくいと、聞く側は内容まで理解できていないように感じますが、実際には指示を正確に理解していることが多いものです。発音と理解は、別々に測るべき力です。その方法は別の記事に書きました。

→ 外国人社員の日本語を、何で評価すればよいのか|4つの軸

二つめの誤解は、口数の少なさを性格と見ることです。何度か聞き返された経験があると、人は話す前にためらうようになります。頭の中では文が正しく組み立てられているのに、口に出すと通じないという経験が重なれば、なおさらです。口数が少ないのは内気だからではなく、通じなかった経験の結果かもしれません。

その意味で、聞き返し方が重要になります。「え?」とだけ聞き返すと、本人は全部が伝わらなかったと受け取ります。「『ご案内』ですね」と、聞き取れた部分を言い返して確かめれば、本人は伝わった部分と伝わらなかった部分を区別でき、次に直すべき場所も見えるようになります。

文法と発音を、別の計画で伸ばします

教え方の原則は、文法と発音を、同じ進度表で一緒に進めないことです。

文法は、速さを活かして早めに業務の言葉へ

文法の骨組みが速く入るなら、その速さを活かします。基本の文型にいつまでもとどまらず、早めに業務の場面の言い方に進んでください。依頼や断りの言い方、敬語のように、形は複雑でも骨組みは同じという表現は、比較的早く扱えます。

ただし、先に触れた「は/が」「に/で」のような使い分けは、説明で理解しても、使うときに崩れます。場面ごとに、動詞と助詞をひとまとまりで覚えるほうが定着します。

発音は、聞き分けから始めて別枠で

発音は、文法の進み具合に合わせて自然に伸びるものではないので、別に時間をとります。

順番は、聞き分ける、拍を数える、現場の速さで言う、の三段階です。「ビル」と「ビール」、「かい」と「かんい」のように一か所だけが違う言葉の組を聞き分けるところから始め、手を打ちながら一拍ずつ数え、最後に忙しい場面と同じ負荷をかけて言います。長さのつまずきに向けたこの進め方は、インドネシア語を母語とする人の場合と共通しています。詳しくはこちらに書きました。

→ インドネシア語話者がつまずく日本語|長音・促音・撥音はなぜ難しいか

違うのは、「ん」を最優先にすることと、小さい「っ」は入りすぎを見ることの二点です。インドネシア語を母語とする人では「っ」が抜けるほうが目立ちますが、ミャンマー語を母語とする人については、ないはずの場所に入っていないかも確かめてください。

経営者が明日できること

  • ミャンマー語を母語とする社員について、「理解」と「発音」を分けて現場の責任者に聞く。二つをまとめて「日本語がまだ」と言っていないかを確かめます
  • 聞き返すときは、聞き取れた部分を言い返す形にするよう、日本人スタッフに伝える
  • 文法の研修が進んでいることを、発音の研修を省く理由にしない。発音には別の時間をとります
  • 業務でよく使う言葉のうち、「ん」を含むものを書き出す。最初の発音の教材になります

文法が速い人は、周りから「できる人」と見られやすい一方で、「なぜ発音だけ直らないのか」と不思議がられやすくもあります。その両方が母語の仕組みから来ていると分かれば、打つ手は具体的になります。伸び方の違う二つの力を、一つの物差しで測らないようにしてください。


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本記事は2026年9月時点の法令・行政資料に基づきます。

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