日本人と同等以上の賃金という要件を、どう証明するか
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この要件は、聞いた瞬間は簡単に思えます。
「日本人と同じかそれ以上の賃金を払えばよいのでしょう」
そのとおりなのですが、実務でつまずくのはそこではありません。同等であることを、誰が、何をもって示すのか。この点が抜けたまま申請の段階になると、急に手が止まります。
示すのは会社の側です
まず原本の書き方を見てください。「同等でなければならない」ではなく、「立証する必要があります」と書かれています。
説明の責任は受入れ側にあるということです。「うちは差をつけていません」と言うだけでは足りず、同じであること、あるいは上であることを資料で示す作業が発生します。
示し方は、比べる相手がいるかどうかで変わります。いる場合といない場合とでは用意するものが違うので、ここを先に切り分けてください。
条文と、その解説
まず法律です。出典は育成就労制度運用要領です。
法第9条 (略) 九 育成就労外国人に対する報酬の額が日本人が当該業務に従事する場合の報酬の額と同等以上であることその他育成就労外国人の待遇が主務省令で定める基準に適合していること。
運用要領の解説が続きます。
○ 育成就労外国人に対する報酬の額については、育成就労外国人であるという理由で不当に低くなるということがあってはなりません。
○ 同じ業務に従事する日本人労働者がいる場合には、育成就労外国人の職務の内容や職務に対する責任の程度が当該日本人労働者と同等であることを説明した上で、当該日本人労働者に対する報酬の額と同等以上であることを立証する必要があります
この定めが二段構えになっている点に注目してください。一段目は、職務の内容と責任の程度が同等であることの説明で、二段目が、報酬の額が同等以上であることの立証です。
順番が逆では成り立ちません。職務が違えば、金額を比べる前提が崩れるからです。まず「同じ仕事だ」と言えるようにしてから、金額の話に入ります。
何を「報酬」として数えるか
比べる金額の中身は、原本に定義されています。出典は同要領です。
「育成就労外国人に対する報酬の額が日本人が当該業務に従事する場合の額と同等以上であること」の「報酬」とは、「一定の役務の給付の対価として与えられる反対給付」をいい、具体的には基本給、賞与、出勤状況や職務内容に応じて支払われる手当(例えば精皆勤手当、職務手当、危険作業手当)が該当し、一般的に通勤手当、住宅手当等の実費弁償の性格を有するもの(課税対象となるものを除く。)は含まれません。
| 数える | 数えない | |
|---|---|---|
| 中身 | 基本給、賞与、出勤状況や職務内容に応じて支払われる手当(精皆勤手当、職務手当、危険作業手当など) | 通勤手当、住宅手当など実費弁償の性格を持つもの(課税対象となるものを除く) |
線は、仕事の対価かどうかで引かれています。
この点は実務に直結します。住宅を用意しているから、その分を賃金から引いてよい、という発想は成り立ちません。住宅手当は、そもそも比べる対象に入っていないからです。
総支給額を並べて「うちのほうが高い」と示すやり方も危ういものです。通勤手当や住宅手当を含めた額で比べると、仕事の対価の部分で下回っていても気づけません。比較表を作るときは、この定義に沿って項目を分けてください。
比べる相手がいない場合
「同じ業務に従事する日本人がいない」という状況は、中小企業ではむしろ普通です。原本は、この場合の示し方を二つに分けています。出典は同要領です。
○ 同程度の技能等を有する日本人労働者がいない場合は、育成就労外国人に対する報酬の額が日本人労働者に対する報酬の額と同等以上であるということについて、 ・ 賃金規程があるときは、同規程に照らした個々の企業の報酬体系の観点から ・ 賃金規程がないときは、例えば、育成就労外国人の職務内容や職務に対する責任の程度が最も近い職務を担う日本人労働者と比べてどのように異なるかという観点から 立証することとなります。
賃金規程があれば、規程の中での位置づけを示すことになります。「この等級のこの号俸に当てはめた」という説明で、規程が整っている会社ほど、この作業は楽になります。
規程がなければ、最も近い職務を担う日本人と比べてどう異なるかを説明します。「近い」の線引きも、「どう異なるか」の説明も、会社の側で作ることになります。
ここから、実務上の示唆が一つ得られます。賃金規程を整えるほうが、毎回説明するより安上がりだということです。受入れが一人で終わるなら説明でもよいのですが、複数年・複数名になるなら、規程を作っておくほうが確実です。
なお、「最も近い職務」をどう特定するかの基準は、この箇所には書かれていません。判断が微妙な場合は、申請の前に確認してください。
費用を理由に下げることはできません
これは明確に禁じられています。出典は同要領です。
○ 技能検定等の受験料や監理支援機関に支払う監理支援費等の費用負担などを理由に、育成就労外国人の報酬の額を低くすることは許されません。
受入れにかかる費用は会社が負担するものであり、本人の賃金から回収するものではありません。
相談の場で、「日本人より費用がかかるので、その分は」という話が出ることがありますが、この方向は封じられています。費用は費用として見積もり、賃金とは別の欄で扱ってください。
来日前に本人が支払う費用についても、別の定めがあります。出典は育成就労法施行規則 第21条です。
→ 送出機関への手数料|本人負担の上限は報酬月額の2か月分 (出典:育成就労法施行規則 第21条)
有期雇用であることも、理由になりません
原本は、別の法律にも触れています。パートタイム・有期雇用労働法により、同一企業内の正規雇用労働者と有期雇用労働者との間で不合理な待遇差を設けることや、職務内容等が同じ場合に差別的取扱いを行うことは禁止されています。原本は、有期雇用労働者である育成就労外国人も対象となると注記しています。
この要件は、育成就労の制度の中だけで完結しているわけではありません。「有期だから」「三年で終わるから」という説明は、こちらの法律の側で問題になります。
時間外労働にも、条件が付いています
原本は、時間外労働について二つのことを書いています。一つは、適正に割増賃金を支払うことです。当然のことですが、明記されています。もう一つは、時間外労働の時間帯においても指導が可能な体制が構築されていることで、こちらが見落とされがちです。
残業させるのであれば、その時間帯にも指導できる人がいる必要がある、という定めです。指導員が定時で帰り、外国人だけが残業している職場の形は、要件の側から否定されています。
時間外労働の上限規制についても、育成就労外国人も対象となると注記されています。
申請のときだけの要件ではありません
計画に効いてくる定めが、もう一つあります。出典は同要領です。
○ 育成就労外国人を継続して受け入れる場合について 育成就労の2年目・3年目の賃金を前年よりも上げるなど、技能の修得度に応じた賃金の格付けを行うなどして、育成就労外国人が技能の修得をしようとする意欲の向上に資するようにすることが必要です。
年次で上げることが求められています。初年度の金額だけを決めて受け入れると、二年目に同じ議論をやり直すことになります。
また、「技能の修得度に応じた格付け」と書かれている以上、修得度を測る仕組みが必要です。何ができるようになったら、どう上がるのかが決まっていなければ、格付けの根拠は作れません。評価を一つの総合点にまとめてしまった場合も、同じように根拠が作れなくなります。
準備するもの
提出することになるのは、認定申請書のほか、雇用契約書と雇用条件書の写し、報酬・宿泊施設・徴収費用についての説明書です。そのうえで、社内に用意しておくと作業が早く進むものを挙げます。
- 職務の内容と責任の程度を書いた紙。金額の前に必要になります。「何をする仕事で、どこまでの判断を任せるか」を書きます
- 比較表。報酬に当たる項目と当たらない項目を分けた表で、定義に沿って分けておけば、そのまま説明に使えます
- 賃金規程。あるなら、当てはめた等級と号俸を記録します。無いなら、作るかどうかをここで判断してください
- 年次の引上げの考え方。二年目・三年目にどうするかを、初年度の時点で書いておきます
- 時間外労働の時間帯の体制。誰が指導するかを決めておきます
経営者が明日できること
- 総支給額ではなく、「報酬」に当たる項目だけを並べた比較表を作ってください
- 通勤手当や住宅手当は、比較から外してください。実費弁償の性格を持つものは含まれません
- 同じ業務の日本人がいるかを確認してください。いるかいないかで、用意するものが変わります
- 賃金規程の有無を確認し、無い場合は作るかどうかを判断してください
- 受入れにかかる費用は、賃金と別の欄に移してください。費用を理由に下げることはできません
- 二年目・三年目の引上げの考え方を、初年度の計画に書いておいてください
- 残業させる想定があるなら、その時間帯に誰が指導するかを決めてください
この要件でつまずくのは、金額が足りないからではなく、同じ仕事だと言える資料が無いからです。金額の話に入る前に、仕事の中身を書き出してください。
この記事で引いた原本
- 育成就労法 第9条第1項第9号(報酬の額の基準)
- 育成就労制度運用要領(立証の必要、「報酬」の定義、比較する日本人がいない場合の立証方法、費用負担を理由とする減額の禁止、パートタイム・有期雇用労働法の適用、時間外労働と指導体制、2年目・3年目の賃金、確認対象の書類)
制度は改正されます。この記事の内容は時点注記の日付時点のもので、実際の判断にあたっては最新の条文と運用要領をご確認ください。賃金や労働時間に関わる判断は、社会保険労務士または弁護士にご相談ください。
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