失踪を防ぐために、受入れ前にできること
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「失踪されたら、どうなりますか」
制度の側から見た答えは、「認定が取り消され得る」です。ただし、すべての場合に取り消されるわけではなく、条件があります。その条件を決めるのは、いなくなった後の対応ではありません。いなくなった時点の自社の状態で決まる、という点が、この記事でいちばんお伝えしたいことです。
まず、制度は「失踪」という言葉を使いません
運用要領が使うのは「行方不明」です。「失踪」はこの文書に一度も出てこない一方、「行方不明」は繰り返し出てきます(出典:育成就労制度運用要領)。
この言葉の違いは実務に影響します。制度が数える「行方不明者」には、次のような定義があるからです。
② 「直近過去3年以内における行方不明者数がゼロ又は行方不明者数の割合が 低いこと」における行方不明者とは、監理支援機関等から外国人育成就労機構に 対し「行方不明」となった旨の育成就労実施困難時届出書が提出された者(同届 出書の訂正を行った場合を含む。)を指します。
数えられるのは、会社が「失踪した」と思ったかどうかではなく、届出書を出したかどうかです。
受入れ前にできることは、3つです
- 賃金と計画の運用を、自社に落ち度が無い状態にしておく
- 相談の受け口を作っておく(制度が求める予防策は、実質これだけです)
- いなくなったときの手順を、先に決めておく
以下、なぜそう言えるのかを原本に沿って説明します。
行方不明者を出さないことは、認定の基準そのものです
育成就労計画の認定基準のひとつに、次の規定が入っています。
規則第 15 条 (略) 十 単独型育成就労に係るものである場合にあっては申請者が、監理型育成就労に係るも のである場合にあっては申請者及び監理支援機関が次のいずれにも該当すること。 イ 過去一年以内に、申請者又は監理支援機関の責めに帰すべき事由により育成就労外 国人の行方不明者を発生させていないこと。
この規定には、限定が2つ付いています。
| 出典:育成就労法施行規則 第15条第10号イ | 中身 |
|---|---|
| 期間 | 過去1年以内 |
| 事由 | 申請者又は監理支援機関の責めに帰すべき事由によるもの |
1人でも出たら即座に基準を外れる、という作りにはなっていません。会社(または監理支援機関)の責めに帰すべき事由によるものかどうかで分かれます。
一方、該当した場合の効き方は次のとおりです。
○ 育成就労外国人を雇用している間に育成就労実施者又は監理支援機関の責めに 帰すべき事由により行方不明者を発生させた場合には、本規定に反するものとして育 成就労計画の認定の取消しの対象となります。
影響は次の申請が通らないことにとどまらず、いま持っている認定が取消しの対象になります。別会社を作って逃れる手も、次のように封じられています。
○ 行方不明者を発生させた育成就労実施者又は監理支援機関が、本基準に適合し ないことを免れるために別機関を作った場合は、実質的に同一の機関であると判断し て、当該別機関も行方不明者を発生させた機関として取り扱うことがあり得ます。
判定は「失踪の原因」ではなく「その時点の自社」で行われます
ここは、最も取り違えやすいところです。
○ 「責めに帰すべき事由」とは、育成就労実施者が育成就労計画や雇用契約内容に沿った育 成就労を行わない場合や、賃金を適切に支払わない場合などが該当します。こうした法令違 反や育成就労計画の認定基準等に適合しない行為が行われていた期間内に1人でも育成就 労外国人が行方不明になった場合には、本基準に適合しないことになります。
この記述を分けて整理すると、次のようになります。
| 出典:育成就労制度運用要領 | 内容 |
|---|---|
| 「責めに帰すべき事由」の例 | 計画や雇用契約の内容に沿った育成就労を行わない/賃金を適切に支払わない |
| 判定の仕方 | こうした行為が行われていた期間内に、1人でも行方不明になった場合 |
判定の入口になるのは、本人がなぜいなくなったかを会社が説明できるかどうかではなく、その人がいなくなった時点で自社が違反していたかどうかです。
そのため、備えるべきは引き止め方より自社の運用です。計画どおりの作業をさせているか、賃金を適切に払っているか。ここが崩れていない限り、行方不明が出ても即座に基準違反にはなりません。反対に、ここが崩れていれば、理由が何であれ基準違反になり得ます。
優良の認定では、二重に効きます
優良な育成就労実施者の配点にも、行方不明に関する項目が2か所入っています。
| 出典:育成就労制度運用要領(配点表Ⅳ) | 効き方 |
|---|---|
| Ⅳ② 直近過去3年以内における行方不明者数がゼロ又は行方不明者数の割合が低いこと | 10%未満又は1人以下:0点/10%以上20%未満又は2人:10点の減点/20%以上又は3人以上:20点の減点 |
| Ⅳ③ 直近過去3年以内の育成就労実施者に責めのある行方不明者発生の有無 | 有:優良適合不可 |
②は減点にとどまりますが、③に当たると一度で優良には適合しなくなります。③の帰責性の例は、次のように書かれています。
② 育成就労実施者に責めのある行方不明者の発生の有無は個別具体的な判断と なりますが、例えば、育成就労外国人に対する報酬を適切に支払わない、育成就 労外国人に対して劣悪な環境下での業務を強制する等の事情により行方不明者 が発生したと考えられる場合には、帰責性があると判断されることになります。
見ている場所は、認定基準の「責めに帰すべき事由」と同じで、賃金と働かせ方です。優良の配点そのものは優良な育成就労実施者の記事で扱っています。
数え方には、決まった分子と分母があります
②の減点は割合で計算し、その計算式も原本に示されています。
| 出典:育成就労制度運用要領 | 中身 |
|---|---|
| 分子 | 分母内の行方不明者数 |
| 分母 | 直近過去3年以内において新たに受入れを開始した育成就労外国人の総数 |
分母は在籍者数ではなく、3年以内に新たに受入れを開始した人数です。長く続けて何人も入れ替えている会社ほど、分母は大きくなります。
「直近過去3年以内」の起点も決まっています。
① 「直近過去3年以内」とは、申請時を起点として遡った3年間を指します。直近3 育成就労事業年度ではありません。ただし、「優良」の判断は、申請後に生じた事 情も勘案して行います。
事業年度で区切るのではなく、申請日から遡って数えます。小規模な会社への配慮も入っています。
④ 「10%未満又は1人以下」、「20%未満又は2人以下」又は「20%以上又は3人以 上」の区分については、一律に行方不明者数の割合だけで評価した場合には小規 模な育成就労実施者では少数の行方不明者が発生しただけでも大きな減点とな ってしまうことに配慮し、行方不明者数による評価を可能としたものです。行方不明 者数の割合よりも行方不明者数により評価したほうが申請者に有利な場合には行 方不明数により評価を行うこととなります。
割合で見ると不利になる場合は人数で評価され、申請者に有利なほうが採られる仕組みです。
制度が求める予防策は、実質1つです
何をすれば防いだことになるのかについて、原本に書かれているのは次の一文だけです。
○ 育成就労実施者及び監理支援機関は、育成就労を適正に行わせる体制を確保す るとともに、育成就労外国人からの相談に真摯に応じるとともに問題の解決に取り組む ことによって、行方不明事案の発生防止に努めなければなりません。
挙げられているのは、体制の確保と、相談に真摯に応じて問題の解決に取り組むことの2点です。面談の頻度や記録の様式といった具体策は原本になく、何をどれだけやれば足りるのかも書かれていません。予防のかたちは、自社で決めることになります。
日本語が通じないことが相談の受け口を塞いでいる場合の考え方は、日本語が通じないと何が起きるかの記事で扱っています。
だから、受入れ前にできる最大のことは「起きた後の手順」です
理由は期限にあります。行方不明は「育成就労を行わせることが困難となった場合」に当たり、届出の義務が生じます。
| 出典:育成就労制度運用要領 | いつまでに |
|---|---|
| 育成就労外国人が途中帰国することとなる場合 | 帰国日の前日又は事由が発生してから2週間以内の、どちらか早いときまで |
| それ以外の場合 | 事由が発生してから2週間以内 |
期限の起点は「事由が発生してから」で、探し始めた日やあきらめた日ではありません。怠った場合についても定めがあります。
に、育成就労実施困難時届出書を提出しなければなりません。提出を怠り、機構の指 導にも従わなかった場合には、行政処分の対象となる可能性があるほか、罰則(30 万 円以下の罰金)の対象にもなります(法第 112 条第5号及び第 10 号)。
2週間という期限が迫ってから初めて手順を考えるのでは、間に合いません。受入れ前に手順を決めておくことが、ここでいう「受入れ前にできること」の中身です。
いなくなったときに、何をするか
原本は、所在把握の手段として次の4つを挙げています。
| 出典:育成就労制度運用要領 | 手段 |
|---|---|
| 1 | 同僚の育成就労外国人からの情報収集 |
| 2 | 本人のSNS |
| 3 | 送出機関等と連携 |
| 4 | 本国の緊急連絡先(家族等)に確認 |
どれも、いなくなってから集められるものではありません。同僚との関係、緊急連絡先の控え、送出機関の担当者が受入れ前に手元にそろっているかどうかで、動ける速さが変わります。
そのうえで、次の3点が決まっています。
す。行方不明となった育成就労外国人の所在が判明して、復帰の説得等をしている場合で あっても、上記のとおり育成就労実施困難時届出書を提出しなければなりません。機構へ の届出書の提出に併せて、最寄りの警察署にも届け出るようにしてください。
| 出典:育成就労制度運用要領 | 内容 |
|---|---|
| 所在が判明して説得している最中でも | 届出書は提出しなければならない |
| 機構への提出に併せて | 最寄りの警察署にも届け出る |
| 本人の在留資格 | 入管法上の在留資格の取消手続の対象となる |
連れ戻せそうだから届出は待つ、という選択はできず、説得中でも届出書は出します。なお、戻ってきた場合の扱いは原本に書かれておらず、「別途、機構の地方事務所・支所に相談してください」で終わっています。
届出には、直近3か月分の賃金の資料が要ります
行方不明を事由とする届出に限り、添付書類が増えます。
○ 育成就労外国人の行方不明を事由として育成就労実施困難時届出書を提出する 場合は、同届出書の提出に加え、行方不明となった育成就労外国人に関する「行方 不明が判明した際の状況説明書」(参考様式第1-29 号)及び直近3か月分の育成就 労の内容及び報酬の支払い状況が確認できる資料の写しも併せて提出してください。
| 出典:育成就労制度運用要領 | 追加で出すもの |
|---|---|
| 1 | 「行方不明が判明した際の状況説明書」(参考様式第1-29号) |
| 2 | 直近3か月分の育成就労の内容及び報酬の支払い状況が確認できる資料の写し |
この2つが求められる理由ははっきりしています。「責めに帰すべき事由」の例には「賃金を適切に支払わない場合」が挙がっていました。行方不明の届出を出した時点で、直近3か月分の支払い状況が確認されることになります。
受入れ前の準備と最も直結するのは、この点です。賃金台帳と支払いの記録を、いつでも3か月分そろえて出せる状態にしておく必要があります。届出の日に慌てて作るものではありません。
監理型なら、監理支援機関の側も動きます
監理支援機関については、別に定めがあります。
○ 育成就労外国人が行方不明となった場合について 育成就労外国人の行方不明の疑いを監理支援機関が把握した場合は、送出機関等と 連携し、本国の緊急連絡先(育成就労外国人の家族等)に確認するなどして所在把握に努 めてください。
監理支援機関が動くのは「疑いを把握した場合」からで、受入企業の側の記述(行方不明となった場合)より一段早い段階です。臨時監査の定めもあります。
※ 育成就労を行わせることが困難となった事由が法第 16 条第1項各号(育成就労 計画の認定の取消事由)のいずれかに該当する可能性がある場合には、監理支援 機関は、育成就労実施困難時届出書の提出とは別に、直ちに臨時監査を実施し、 速やかにその結果を監査報告書により機構の地方事務所・支所の指導課に報告す る必要があります(規則第 67 条第3号、第 16 節参照)。
行方不明が出れば、監理支援機関は自社を監査し、その結果を機構に報告します。監理支援機関の選び方は監理支援機関の選び方の記事で扱っています。
当社が確認できていないこと
- 行方不明の発生状況の統計は、この原本にありません。出入国在留管理庁が公表している統計が別にあるはずですが、当社は取得できていません。そのため、「どれくらい起きるのか」にはこの記事では答えられません
- 予防策の水準は、原本に書かれていません。求められているのは「体制の確保」と「相談に真摯に応じ問題の解決に取り組むこと」までで、何をどれだけやれば足りるのかは示されていません(出典:育成就労制度運用要領)
- 「責めに帰すべき事由」を誰がどう判断するのかは、原本に書かれていません。例が2つ挙がっているだけで、判断の主体と手続は示されていません
- 参考様式の現物は取得できていません。分かっているのは番号と名称だけです(参考様式第1-29号、参考様式第1-36号ほか)
- 罰則の条文そのものは引いておらず、運用要領が引用している法第112条の号の番号までにとどまります。なお原本は、受入企業側を「法第112条第5号及び第10号」、監理支援機関側を「法第112条第1項第3号及び第8号」と、項の書き方を揃えずに書いています
- 法第16条第1項各号(認定の取消事由)と規則第67条第3号(臨時監査)の条文にも到達していません
経営者が明日できること
- 賃金台帳と支払いの記録を、直近3か月分すぐ出せるかを確かめる。行方不明の届出では、これが添付書類になります。
- 育成就労計画に書いた作業と、実際にさせている作業を突き合わせる。「計画に沿った育成就労を行わない」は、責めに帰すべき事由の例に挙がっています。
- 相談の受け口として、誰が、どの言語で、いつ受けるかを決める。制度が求めている予防策は、ここだけです。
- 本国の緊急連絡先と送出機関の担当者の連絡先を、受入れの時点で控えておく。いなくなってから集めるものではありません。
- 届出の期限を社内の手順書に書いておく。期限は、事由が発生してから2週間以内、途中帰国するなら帰国日の前日との早いほうです。
失踪を「防ぐ」という言い方は、制度の側の関心と少しずれています。制度が見ているのは、いなくなった時点で自社がどういう状態だったかです。賃金を払い、計画どおりに働かせ、相談を受けていたなら、行方不明が出ても基準違反にはなりません。
制度は改正されます。この記事の内容は時点注記の日付時点のもので、実際の判断にあたっては最新の条文と運用要領をご確認ください。
この記事で引いた原本
- 育成就労法施行規則 第15条第10号イ(行方不明者の発生に関するもの)
- 育成就労法 第19条(育成就労を行わせることが困難となった場合の届出等)
- 育成就労制度運用要領(「責めに帰すべき事由」の意味と判定、優良の配点Ⅳ②③とその解説、行方不明者の定義と割合の計算、届出の期限と罰則、行方不明となった場合の対応と添付書類、監理支援機関側の臨時監査)
いずれも法令の原本および制度の運用要領から引用しています。制度は改正されますので、実際の手続きにあたっては、最新の条文と要領をご確認ください。
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