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外食にアレルギー表示の義務はない|だから口頭の確認が最後の防壁になる

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朝食会場で、お客様に「これ、えびは入っていますか」と尋ねられたとします。メニューには何も書かれていません。

これは、法令上は問題のない状態です。外食には、アレルギーの表示義務が及ばないからです。ただし、経営の問題はここから始まります。書く義務がないということは、その場の一言が、会社の出す唯一の情報になるということだからです。

書かなくても違法ではないからこそ、口頭の答えが会社の答えになる

表示義務がないことは、情報提供をしなくてよいという意味ではありません。紙という経路が制度上存在しないぶん、会話がそのまま会社の回答になるという意味です。ここを「義務がないから関係ない」と整理してしまうと、現場の一言が野放しになります。

外食は、表示のルールの適用から外れています

食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)の第1条は、適用範囲を次のように定めています。

第一条 この府令は、食品関連事業者等が、加工食品、生鮮食品又は添加物を販売する場合について適用する。ただし、加工食品又は生鮮食品を設備を設けて飲食させる場合には、第四十条の規定を除き、適用しない。

後半の「ただし」以降が、外食にあたる部分です。設備を設けて飲食させる場合、すなわち客席で食事を提供する行為には、この府令が適用されません。メニューにアレルゲンを書かなくても、それ自体は違反ではありません。

条文には除外される規定が一つ挙げられていますが、その中身までは確認できていないので、ここでは触れません。

注意していただきたいのは、同じ建物の中で扱いが分かれることです。客席で出す料理は適用外ですが、容器包装に入れて販売するもの(売店の土産物、包装済みの弁当や惣菜)は加工食品の販売にあたり、表示のルールがかかります。旅館では、この二つが同じ厨房から出ていきます。

義務表示の対象は、えび、かに、くるみ、小麦、そば、卵、乳、落花生(ピーナッツ)、カシューナッツの9品目です。最後のカシューナッツは、令和8年4月1日の改正で加わりました。このほかに、表示が推奨される品目が20あります。

「義務がない」は「自由」ではありません

この記事で最もお伝えしたいのは、この点です。

表示義務がないことと、何も求められていないことは違います。消費者庁は、外食・中食の事業者向けに、情報提供のチェック項目を示した資材を出しており、たとえば次のような項目が並んでいます。

  • 最新で正確な情報を提供する
  • あいまいな回答はしない
  • 意図しない混入(コンタミネーション)の可能性を伝え、重い症状が出うる方には慎重な判断を促す
  • 「食べられる/食べられない」の判断はお客様にしていただく
  • 問い合わせには正しい知識を持った者が対応する

この資材は法令ではなく、事業者向けの啓発資材です。守らなければ罰則がある、という性質のものではありません。

ただ、出所を見ると位置づけが分かります。同じ資材には、アレルギー疾患対策基本法に基づく国の基本指針が改定された際に、外食事業者等が行う適切な情報提供の取組を国が積極的に推進する旨が追記されたことを踏まえて作成した、という趣旨の記載があります。

表示を義務づける府令は外食にかからないため、その代わりに、情報提供の作法を国が示して推進しているという構造です。「義務がないから自由」なのではなく、「義務がないからこそ、やり方を示している」という順序になっています。

唯一の情報経路が、口頭のやり取りになります

紙に書く義務がないとき、情報はその場の会話を通ります。これは、経路がひとつしかないという状態です。

紙であれば、書いた人、確認した人、印刷した人が関わるので、間違っていれば途中で誰かが気づく可能性があります。口頭には、その層がありません。聞かれた人が答えた瞬間に、それが会社の回答として完結します。そのため、現場で誰が何と答えるかが、そのまま会社の情報提供の質になります。

ここは仕組みでしか担保できません。誰に聞きに行くか、何と言うか、分からないときにどうするかという担保の作り方は、別の記事に書きました。

→ 「多分大丈夫です」が現場でいちばん危ない言葉である理由

この記事は制度の側から、あちらの記事は現場の側から、同じ一点を見ています。

誤った案内は、責任につながりえます

表示義務がないことは、誤った案内をしてよいことを意味しません。

誤った情報提供によってお客様に健康被害が生じた場合、民事・刑事・行政のそれぞれで責任を問われる可能性があります。ただし、どの責任がどこまで及ぶかは個別の事案の認定によるため、この記事で断定することはできません。自社の運用が妥当かを確かめたい場合は、弁護士等の専門家にご確認ください。

経営者として押さえておくべきなのは、「表示義務がないから関係ない」という整理は成り立たない、という一点です。

正確に伝えるとは、どういうことか

情報提供の作法として、具体例をひとつ挙げます。

義務表示の品目は、先ほど挙げたとおり、個別の名前で並んでいます。「えび」「かに」であって、「甲殻類」ではありません。現場では、つい総称でまとめたくなり、「甲殻類は使っていません」と言えば早く済みます。しかし、この言い方には二つの危うさがあります。

一つは、総称の範囲が人によって違うことです。えびとかにを思い浮かべる人もいれば、貝やいかまで含めて考える人もいます。答える側と聞く側で範囲がずれれば、会話が成立していても情報は伝わっていません。

もう一つは、確認の単位とずれることです。厨房で確かめられるのは「この料理にえびを使ったか」であって、「甲殻類全般を使っていないか」ではありません。答え方を確認の単位に揃えておかないと、確認していないことまで答えてしまいます。

「えびは使っておりません。かにについては確認してまいります」という答え方は、長く感じるかもしれませんが、確認できた範囲に正確に対応しています。

経営者が明日できること

  • 容器包装で売っているもの(売店の土産物、包装済みの弁当や惣菜)を洗い出す。これらは表示のルールがかかる側なので、客席での提供と同じ扱いにしていないか確認します
  • アレルギーの問い合わせに誰が答えるかを決める。「気づいた人が」ではなく、時間帯ごとに名前で決めます
  • 答えた内容が残る形を作る。口頭には記録がないため、何を聞かれ、何と答えたかが後から分からない状態を放置しないようにします
  • 総称で答えない取り決めを作る。「甲殻類」ではなく「えび」「かに」と言い、確認できた範囲だけを答えます
  • 掲示やメニュー表記の方針を、一度専門家に見てもらう。書かないという選択にも、書くという選択にも、それぞれ影響があります

表示義務がないことは、経営者にとって不利な話ばかりではありません。紙の様式に縛られず、自社の現場に合った形で情報提供を設計できるということでもあります。

ただし、その設計を誰もしていなければ、設計がないまま現場が答え続けることになります。制度が様式を定めていない領域は、会社が自分で様式を決める領域です。


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本記事は2026年9月時点の法令・行政資料に基づきます。

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